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ヤフー執行役員が「部下の『努力』を評価するな」と語る理由

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.07.26 06:00 最終更新日:2018.07.26 06:00

ヤフー執行役員が「部下の『努力』を評価するな」と語る理由

 

 日本企業の成果主義では、本当に「成果」を評価しているのかという疑問が拭えません。どういうことかというと、企業側は、社員の「アウトカム(成果)」で評価すると言いつつ、実際には時間などの「インプット」で評価する傾向が強いのです。

 

 米国企業の多くでは、ポジションに応じて「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」という文書がつくられ、具体的な職務内容、職務の目標・目的、責任や権限の範囲、そのポジションが有する社内外の関係先、必要とされる知識や技術、資格、経験、学歴などが克明に記されます。

 

 これにより、そのポジションに就く社員が遂行すべき仕事や出すべきアウトカムがはっきりしますし、社員の評価もやりやすくなります。

 

 しかし、日本企業では、従業員全員が守らなくてはならない就業規則はあっても、個々のポジションの職務を定めるジョブ・ディスクリプションが作成されることはまずありませんし、企業が正社員一人ひとりと雇用契約を結ぶ、といったこともありません。

 

 したがって、それぞれの社員の仕事の範囲はあいまいで、成果もはっきりとは定義されていません。

 

 そうすると、企業は社員のインプット、たとえば社員が仕事に投入した「時間」を買い取ることになります。つまり、成果主義に移行したといいつつ、時間に対して給料を支払うという昔の慣習から抜け切れないのです。

 

 だから、社員が8時間以内に仕事を終えてしまうと、その人は暇なのではないかと疑われてしまい、「支払った給料の分は働いてもらう必要があるから、あいつにもっと仕事を振れ」といった話になったりもします。

 

 それどころか、もともと仕事の範囲があいまいなわけですから、社長が「花見の場所取りをしてくれ」と言えば、社員は断ることができないということも起こりうるのです。

 

 その一方で、「あいつは頑張っているから、高い評価を与えておこう」といった印象評価もまかり通っています。この場合の「頑張り」もアウトカムではなく、インプットです。

 

 それにしても、「頑張る」とは一体どういうことでしょうか。
私は個別指導で英語を習っており、先生はスティーブというイギリス出身の男性なのですが、あるときそのスティーブにこう尋ねられました。

 

「日本人はよく『頑張れ』と言うけど、あれはどういう意味ですか」

 

 彼の説明によると、英語では、何かにチャレンジしている人に対して「Do your best(最善を尽くせ)」とか「Good  luck(幸運を)」と言うことはあっても、「頑張れ」にぴったり当てはまる言葉は存在しないそうです。

 

 この話をしていたとき、彼が例として挙げたのは、毎年夏に放送される『24時間テレビ 愛は地球を救う』のマラソンのコーナーのことで、「なぜみんなはランナーに『頑張れ』と言うんですか?」と首を傾げていました。

 

 スティーブの言うことはなかなかもっともで、日本人は何かにつけて「頑張れ」「頑張る」「頑張ります」と言います。頑張ることそれ自体が美徳のように考えられており、不器用な人が非効率なやり方で仕事をしていても、一生懸命に頑張っているように見えれば、ほめられたりします。

 

 逆に、成果をちゃんと出していても頑張っていない態度を見せてしまうと、「生意気だ」などと非難されることさえあります。

 

 日本人の頭の中では、頑張ることは誰にでもできるのだから、成果はともかくとして頑張りなさい、というような一種の思考停止が起きているようにも思われます。

 

 さらに、「頑張れば必ず報われる」という考え方も、日本人の間には非常に根強いようです。

 

 2014年に、ちょっとした論争が起きました。明石家さんまさんのラジオ番組に、あるアイドルグループのメンバーが出演し、「名言」を紹介するコーナーで「努力は必ず報われる」という言葉について語ったところ、さんまさんは「それは早くやめた方がええね、この考え方は。努力は報われると思う人はダメですね。努力を努力だと思っている人はだいたい間違い」と持論を述べたのです。

 

 番組中にさんまさんはさらにこう続けました。

 

「好きだからやってるだけよ、で終わっといた方がええね。これが報われるんだと思うとよくない。こんだけ努力してるのになんでってなると腹が立つやろ。人は見返りを求めるとろくなことがないからね。見返りなしでできる人が一番素敵な人やね」

 

 このさんまさんの発言は、ネット上で話題となり、大半の人たちからはかなり好意的に受け止められたようです。私もさすがだなと感じましたし、「努力」という言葉を「頑張る」と置き換えても同じことが言えるだろうと思いました。

 

 つまり、頑張れば必ず報われると思っている人は、見返りを得られているうちは頑張るけれども、見返りが得られないとわかると頑張らなくなる。さんまさんが鋭く突いているのはそういう「見返り主義」の弊害ではないかと思います。

 

 しかし実際には、頑張れば報われる、あるいは頑張った人は報われるべきだと考えている人は本当にたくさんいて、企業の人事担当者の中でも「あの人は今期、とても頑張ったから評価を高くしましょう」などと口にする人の方が多いぐらいです。

 

 そうした考え方が成果主義の不徹底につながっていることに、人事担当者自身が気づいていないのです。

 

 

 以上、ヤフー上級執行役員・本間浩輔氏の新刊『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)を元に再構成しました。数々の人事施策を提唱してきた著者の、「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の希望に満ちた働き方改革論です。

 

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