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平均寿命より健康寿命を…「予防歯科」に取り組む男の転機

ライフ・マネー 投稿日:2018.08.03 16:00FLASH編集部

平均寿命より健康寿命を…「予防歯科」に取り組む男の転機

 

 浅野弘治さん(54)は、金沢に本社を置く歯科医療用材料や機械を扱う商社の二代目社長である。しかし、歯科の領域にとどまらない製品開発や、海外企業との提携をおこなうなど、歯科業界になかった新しい会社づくりを目指してきた「創業者」でもある。

 

「父は働きながら大学へ通い、卒業後は起業を考えていました。人間が存在する限り続く仕事がよいと考え、人体でいちばん数が多い『歯』の分野に可能性を感じ、歯科業界の仕事を始めました。

 

 

 その父は、私が中学1年の夏に心筋梗塞で倒れました。2時間しか持たないと言われながら奇跡的に助かったものの、九州や京都まで広げていた事業は、北陸3県と千葉に縮小せざるをえなくなりました」

 

 父親の病気は、浅野さんの人生にも深く関わる。1日でも早く経営者になるために、中央大学の法学部に入学すると同時に、父親の会社にも入社した。学業のかたわら東京で営業を始めたが、地縁、血縁、ネットワークはおろか、知識もスキルもない若者に、現実は厳しかった。

 

 悩んだ末に、人が嫌ってやらないことで勝負しようと決めた。コンピュータの勉強をしながら、2年がかりで黎明期のレセプト(診療報酬明細書)コンピュータの開発に取り組んだのである。そして、自ら全国の歯科開業医に販売活動をおこなった。

 

「6年で全国の政令市に支店を構え、夢だった全国展開をするメーカー部門の確立を果 たしました」

 

 コンピュータの仕事に注力していたため、歯科医療用機械などの知識に乏しかった。そのため、27歳から2年間、アメリカの歯科大学の歯科理工学教室に勤務し、最先端の知識を学んだ。アメリカでの経験は鮮烈だった。

 

 当時のアメリカの医療は日本と異なり、全額自己負担だったため、「予防医療」が発達していた。つまり、病気にならないように健康を維持するための医療である。その違いを知ったことは、「現在」の常識にとらわれず、「未来」の姿を見据えて事業を創造することにつながっていく。

 

 1999年、36歳のときに父親の死という最大の転機を迎える。父親は最晩年に再び健康を害し、会社の統治が十分ではなかった。

 

「お前は創業者になれ。だから教えることは何もない」 と言い続けていた父親の突然の死で、その存在の大きさと、自らの力のなさを思い知らされることとなった。

 

「社長就任直後に、社員が大量に退社するなど、順風満帆どころか、会社存続の危機に船出をしました。後始末と、危機管理の徹底に3、4年かかりました」

 

 その後、2014年に横浜本社を設立。金沢との二本社制にした。また、2015年には(株)浅野歯科産業から(株)ADI.Gに社名を変更。そして2017年、創業60周年を迎えた。

 

「企業のミッションとして、“口から始まる全身の健康により、健康寿命を延伸する” を掲げたのは2011年。これまでの歯科医療に加え、予防を前提としたウエルネス、健康増進という新たな領域が生まれてきました。

 

 これは時代の要請であり、市場としても有望で、この分野でできることを考えています。実際に、スウェーデンのバイオテクノロジー企業や、アメリカのメジャースポーツブランドと提携して、予防歯科の事業を、すでにいくつか展開しています」

 

 一方で、スポーツの支援にも力を注ぐ。

 

「スポーツは健康に深く関わると同時に、人づくりと街づくりを活性化する力があります。子供たちが熱中できるものがあるのはいいこと」

 

 地元・金沢の活性化につながると、2014年にはBリーグのプロバスケットボールチーム「金沢武士団(カナザワサムライズ)」の設立発起人にもなった。

 

 ところで、読んだだけではわからないのが、社名のADI.G(エイ・ディ・アイ・ドット・ジー)の意味だ。

 

「Aは浅野、Dは歯科、Iは産業の頭文字、ドットはコンピュータから始めた原点を忘れないためで、Gはギフト。お客様に、贈り物をもらったときの気持ちになってもらえたらとの思いをこめました……」とのことである。

 

(週刊FLASH 2018年8月14日号)

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