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「宝塚歌劇団」結成の裏エピソード「始まりはプール」だったライフ・マネー 投稿日:2018.08.28 16:00

「宝塚歌劇団」結成の裏エピソード「始まりはプール」だった

 

 大正2年(1913)6月、箕面有馬電気軌道は宝塚―有馬間の軌道敷設権を放棄した。観光地である有馬までの延伸が完全になくなったことで、箕面有馬電気軌道にとって宝塚の重要性が増した。

 

 

 有馬までの権利を放棄したのは6月23日で、その1週間後の7月1日に宝塚唱歌隊が結成された。もちろん、その前から準備していたに違いない。

 

 宝塚に新施設「パラダイス」が開場したのは前年(明治45)7月1日で、売り物は屋内プールだった。当時としては画期的、日本で最初の屋内プールである。水がきれいなこと、毎日、日本体育会の教師が来て水泳を教えるのが売り物だった。

 

 プール以外には「自動音楽」(オルゴールのことだろうか)、その前に立つと幼い頃・現在・将来の自分の姿が映るという「まぼろしの鏡」、持っているバラから香水を注ぐ「香水美人」、あるいは室内運動場など、さまざまな見世物、施設があった。

 

 その外観は白いルネサンス式洋館で、鉄筋3階建て。1階は150坪のうち100坪が巨大な水槽、つまり屋内プールだった。浅い所で2尺(約60センチ)、深い所で8尺(約2.4メートル)で、大人でも子供でも楽しめるように造られた。

 

 しかし、箕面有馬電気軌道の小林一三は、戦争末期の昭和20年7月3日の日記に当時を回想して、〈ところが大失敗。此(この)プールは盛夏の間でも冷水で日光が直射しない屋内であったから、つめたくて、寒くて五分間以上は遊泳が出来ない〉。

 

 屋内プールは温水にしなければならないことを知らなかったのだ。さらに当時は女性が見物することと男女共泳が禁止されていたのも致命的だった。

 

 150坪の施設の3分の2の100坪のプールは、無用の長物となってしまった。さてどうするか。小林は閃いた。プールの水を抜けば、そこは傾斜のついた巨大スペースとなる。そこに椅子を並べれば劇場の客席になるではないか。プールに隣接している脱衣場を改築して舞台にしよう――と思い付いたのだ。

 

 その舞台で何を上演したらいいか。三越で少年音楽隊が人気を呼んでいるのを小林は知っていた。帝劇で歌劇も見ていた。こうしたことから少女による歌劇上演を思い付いた。

 

 宝塚歌劇誕生物語は、以上のようになっている。小林自身が話したり書いたりしていることを根拠として、この物語は流布していったわけだが、2017年7月刊行の伊井春樹著『小林一三は宝塚少女歌劇にどのような夢を託したのか』(以下、『夢を託したのか』と略す)はこの神話ともいうべき伝説を検証している。

 

 同書によると、プールが失敗したので劇場に転用、改築したのではなく、プールは最初から劇場としても使えるように設計されていたという。

 

「大失敗から大成功が生まれた」という物語は、日本初の屋内プールを作ったという「先見性」、失敗したと認めるとすぐに撤退した「決断力」、そしてプールを劇場にしようという大胆な「発想」と、小林一三の天才性の象徴として流布、拡散したわけだが、これは巧妙な歴史の書き換えだったようだ。

 

 パラダイスのオープンは7月、つまり夏だ。しかし冷水だと5分が限界だった、温水でなければならなかった、と小林は回想している。

 

 しかし、夏ならば冷水でいいと思っていたとしても、冬はどうするつもりだったのか。冬もプールとして使うのなら温水にすべきだし、温水にすると考えなかったのであれば、はじめから冬はプールとして使うつもりはなかったのではないか。

 

『夢を託したのか』は、当時の新聞記事を引用している。そこには〈冬期は水槽の上一面に蓋を掩(おお)いて客の座席に宛て〉と書かれていた。つまり最初から劇場としても使う予定の設計だったのだ。

 

 小林はそれを忘れたのか、話を面白くする(失敗したほうが面白い)ためにか、「プールは失敗したので劇場にした」物語を流布させたのである。

 

 では実際に夏が終わった後、どのように利用していたのか。『夢を託したのか』では秋から冬に何か催したかどうかは不明としているが、翌大正2年3月から5月には「婦人博覧会」が開催されたとある。その博覧会の期間には、有楽座による「女優家庭劇」が上演された。

 

 そして夏になると、再びプールが開場している。前年、閑古鳥が鳴いたにもかかわらず、2年目もプールとして使用しているのだ。このことから、最初から夏季はプール、それ以外は劇場なりイベント会場として使うつもりだったことは明らかだ。

 

 だが、3年目からはプールとしては使われない。宝塚少女歌劇の人気が予想以上で、プールにするよりも、公演させたほうがいいと判断されたのだ。

 

 

 以上、中川右介氏の新刊『松竹と東宝 興行をビジネスにした男たち』(光文社新書)を元に再構成しました。なぜ松竹は歌舞伎を独占しているのか、なぜ東宝と阪急は同じグループなのか、膨大な資料を読み解いて描き出した新たな演劇史です。

 

●『松竹と東宝』詳細はこちら

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