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チェルノーゼムを買い占めろ…世界で始まった「土」の争奪戦

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.09.01 06:00 最終更新日:2018.09.01 06:00

チェルノーゼムを買い占めろ…世界で始まった「土」の争奪戦

 

 世界で一番肥沃なを「チェルノーゼム」という。歴史の表舞台となってきた西ヨーロッパにはチェルノーゼムが少ない。

 

 かつて氷河に覆われたイギリス、ドイツの土壌は永久凍土になることは免れたが、氷河に削られた肥沃な表土は風に飛ばされてしまった。残されたのは、貧栄養なポドゾルや未熟土だ。広大なロシアも、フタを開けてみれば国土の6割以上を冷たい永久凍土が占める。食糧を供給する肥沃な農地が足りない。

 

 一方、北欧やドイツから失われた細かい砂塵は風に舞ってヨーロッパ東部に堆積し、肥沃なチェルノーゼムとなった。ウクライナには世界のチェルノーゼムの3割が集中している。

 

 小麦の穀倉地帯は、「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれた。そんな魅力的な土壌は、ロシア、ドイツの標的となり続けてきた。土に焦点を当てて語るなら、氷河によって肥沃な土を失った地域の人々が、その土が堆積した地域へ侵攻した、という構造になる。

 

 第二次世界大戦中のドイツ軍がウクライナのチェルノーゼムを貨車に積んで持ち帰ろうとしたというエピソードも残されている。

 

 土の奪い合いは過去のものではなく、現在も形を変えて進行中だ。

 

 国外に肥沃な農地を囲い込む争奪戦は、グローバル・ランド・ラッシュと呼ばれる。ラッシュとは、通勤ラッシュのように人が殺到する意味だが、目指すのは職場ではなく農場だ。

 

 カナダの内陸部のプレーリー地帯(サスカチュワン州)を車で走ると、農場のあちこちに「Land For Sale(売地)」の看板があり、その安さに驚かされる。

 

 肥沃なチェルノーゼムの農地が、1ヘクタール(畳6000枚ほどの面積)あたり20万円で売られている。同じくチェルノーゼムの広がるウクライナの農地にいたっては、その半額だ。同じ値段で日本の農地を買えば、10分の1の面積しか手に入らない。

 

 1ヘクタールあたり毎年2トンの小麦が収穫できれば、5万円の収入になる。4年で元が取れる計算だ。商社マンでなくても算盤をはじきたくなる。

 

 農場には、実際にインドや中国の買い手が殺到している。人口を養う農地面積が限界を迎え、海外に農場を確保し始めたのだ。ターゲットはもちろんチェルノーゼムだ。

 

 国土の大半をサハラ砂漠が占めるリビアも、原油の供給と引き替えにウクライナに大規模な農地10万ヘクタール(東京都の半分ほどの面積)を確保した。

 

 同じく中東の産油国のカタールも、ケニアの火山灰土壌やひび割れ粘土質土壌を確保した。砂漠土ばかりで農地の欲しい産油国とエネルギーや化学肥料の欲しい農業国の利害は一致する。

 

 穀物価格の乱高下や食糧危機は、チェルノーゼムをマーケットの商品にさえ変えている。ウクライナではチェルノーゼム1トン(幅1メートル×奥行き1メートル×深さ1メートル)あたり1~2万円の売買までまかり通っている。

 

 闇取引でありながら、1000億円の産業だ。

 

 10トントラックが土を持ち出していく。安く買った土地に客土(よその土を搬入すること)されるのだ。肥沃な表土を失った農地はゴミの埋め立て地になってしまうという。

 

 なんとも、もったいない話だ。土の皇帝に担ぎ上げられたチェルノーゼムだが、ラッシュで揉みくちゃにされているのが現状だ。

 

 

 以上、藤井一至氏の新刊『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』(光文社新書)を元に再構成しました。世界の土はたった12種類。しかし、毎日の食卓を支えてくれる「肥沃な土」はどこにあるのか? 地球をめぐるちょっと「地味」でだいぶ「泥臭い」大冒険!

 

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