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迷惑千万な「ゴミ屋敷」もしかしたら大人のADHDかも
アイさんは30代の女性です。
彼女は長い間一人暮らしをしていましたが、住んでいるアパートは足の踏み場もないくらい、とても散らかっていました。片づけができないため、鍵や印鑑や通帳、パスポートといった大事なものを何度も紛失しています。
そんなアイさんに、ある日、恋人ができました。でも、彼を家に呼んだことは一度もありません。散らかっている部屋を見られて、彼に嫌われたくなかったからです。
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やがて、アイさんは彼と婚約し、同棲することになりました。アイさんは「これをきっかけにして、汚部屋の住人から脱出だ!」と決意しました。
しかし、2人の部屋に自分の荷物を運び入れた時点で、アイさんは膨大な数の段ボール箱に圧倒されてしまい、引っ越しが終わってもなかなか荷ほどきに手がつけられません。毎日会社に着ていく洋服は、段ボール箱のすき間から引っ張り出す有様です。
彼は、アイさんに早く片づけるように言いますが、アイさんが一向に片づけようとしないので、けんかになることもあります。休日は片づけができないまま、彼と映画や買い物に外出してばかりいるので、疲れを癒しきれません。
数か月が過ぎても荷物を片づけられないため、彼から叱られることが増えたアイさんは、夜遅く帰宅するようになりました。そのうえ、寝る前にちょっとだけのつもりで始めたゲームにハマり、気がつくと徹夜になっていることもたびたびです。翌日、職場に遅刻ギリギリで駆け込むことも増えました。
アイさんは、ADHDと診断されています。ADHDには不注意・多動性・衝動性の3つの特性があります。ADHDの人によく見られる行動は、すべてこのいずれか、あるいは複数の要素にまたがったものです。
アイさんの場合、「やらなくてはならないことがあるときに限って、別のことばかりしてしまう」「しなければならないことが多く、いつもパニックになって、どこから手をつけていいかわからなくなる」ので、整理整頓や片づけができないのです。
これは、やらなくてはならないことに集中し続けることが難しい「不注意」と、目の前の興味のあることに飛びついてしまう「衝動性」の2つの特性がミックスしています。アイさんが徹夜でゲームをしてしまうのも、過集中を起こしているためです。
成人ADHDの人の大きな悩みのひとつは、規則正しい生活リズムで生活を維持することができないことだと言われています。決まった曜日にゴミを出すことや、三度の食事の支度や片づけ、あるいは掃除のように、単調で興味を持てないルーティンワークは集中力を維持することができません。
成人ADHDは職場の領域でも大きな問題となっていますが、職場よりも地域社会でより目立つ事例が存在します。その端的な例が、いわゆる「ゴミ屋敷」です。専門的には「ためこみ症」と呼ばれていて、その背景には強迫性障害や認知症の存在の可能性もありますが、ADHDも関係しているとも考えられています。
アイさんの例でもわかるように、どうしても片づけや整理整頓ができない人達がいるのです。
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以上、中島美鈴氏の新刊『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)を元に再構成しました。
片づけできない、いつも時間ギリギリ、後先を考えず行動してしまう……ADHDの「困りごと」に対処するための、認知行動療法のエッセンスを伝えます。
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