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【目指せ不思議スポット】山頂に残る謎めいたピラミッド
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.11.13 06:00 最終更新日:2018.11.13 06:00
日本にもピラミッドがあるというのは、わりと知られた俗説だ。それらはエジプトに見られるようなわかりやすい石積みの四角錐ではなく、古来より聖地として崇められてきた自然の山が多い。
たとえば “元祖” は広島県の葦嶽山で、こちらは和製ピラミッド研究の第一人者である酒井勝軍が、昭和初期に初めて認定したもの。他にも、クロマンタの愛称で知られる秋田県の黒又山や、ダイダラボッチ伝説が残る愛知県の石巻山など、枚挙にいとまがない。
これらはいずれも古代から信仰対象とされてきた痕跡があるだけでなく、葦嶽山は中腹あたりに人工的な石積みの跡が見られ、黒又山は中が空洞であることがわかっていたりして、いずれも掘り下げればそれなりにワクワクする話が湧いて出る。
そんな日本のピラミッドのカテゴリーに、ぜひ加えたいスポットがある。岡山県の「熊山遺跡」だ。既存のピラミッドたちとは趣は異なるが、見れば誰もがエジプトのピラミッドを想起せずにはいられないだろう。
基壇の上に3段の石積みを構築した独特の遺構は、国史跡に指定されており、ミステリアスな威容を誇っている。建造年や用途についての記録がなく、その正体を巡って様々な議論が交わされてきたこの熊山遺跡を目的に、さっそくトレッキング体制を整えた。
標高508メートルの熊山は、県南の最高峰。今でこそこうして「熊」の字があてられている熊山だが、もともとは吉備の国の “隅” に位置する隅山と表記され、それが転じて現在の呼称になったという。
曲がりくねった峠道の風景を楽しみながら登っていくと、突然視界が大きく開ける。山頂だ。
熊山遺跡の石積みの構造物は、期待に違わぬ物々しいムードを纏っており、しばし呆然と見とれてしまった。なんでも、4つの側面は正確に東西南北を指しているそうでだから、ますます誰が何の目的でこしらえたものなのか疑問が深まる。
登るわけにもいかないので直接確かめることはできないが、石積みの中央には2メートルほどの竪穴の石室が設けられているそうで、そこには高さ1.6メートルの陶製の筒型容器が収められていたという。
容器の中には三彩釉の小さな壺(低火度溶融の釉薬で加彩したもの)と、文字が書かれた皮製の巻物が入っていたと伝えられている。巻物に書かれていた内容については不明で、盗掘によって現在は行方がわからないというから残念にすぎる(陶製容器のほうは奈良・天理大学附属天理参考館で管理されている)。
――結局、この遺構は何なのかといえば、いまのところ明確な答えは存在しない。しかし、ここが山頂の伽藍であったことや、石積みの方式から推測すると、おそらく奈良時代初期に造られた仏塔ではないかというのが現実的な落としどころのようだ。
もちろん、すべては今ある資料だけを材料に導きだした推論に過ぎないから、今後、こうしたイメージを一気に翻す物証が見つからないともかぎらない。なにしろ、熊山山塊にはこれまで、大小32基の石積みの跡が確認されているのだ。
実際、帰りの道中には峠道の途中で、おもむろに炭焼窯の遺跡を示す案内板を見つけた。美しい清流沿いを80メートルほど登っていくとすぐに、それらしき石組みの遺構が確認できた。
いつごろのものかはわからない。しかし、この熊山が太古の昔から霊峰として崇められていたことを想像させるのに十分なものだった。
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以上、友清哲氏の新刊『消えた日本史の謎』(知恵の森文庫)から再構成しました。謎の構造物、おかしな物体、奇妙な伝承、未解明のパワースポット…不思議をめぐる旅の記録です。