サラリーマンの世界に見切りをつけ、趣味の世界を極める。そんな「夢のような生活」を実践している、大道芸人の太平洋さんを訪ねた。
金曜、午後の上野公園。その一角に30人ほどの観客が集まっていた。観客の輪の中心にいるのは太平さん。「和芸」と呼ばれる、日本の伝統的な大道芸を得意とする。歓声がひときわ高まったのが、綱渡りだった。
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「やっぱり気合が入りますね。テンションを上げておかないと怪我しますから」
子供のころから大道芸に憧れ、練習を積んだ。大学時代はいろいろなイベントに呼ばれるほどに。だが、芸で食っていく気はなかったという。
大学を卒業後、東証一部上場の建材メーカーに就職したが、その会社が典型的なブラック企業。土日出勤は当たり前、平日も夜遅くまで働かされた。
「まさに『奴隷』でした」というほどの職場を2年で退職し、介護関係の職に就くが、そこも将来性が感じられず退職する。28歳になっていた。そしてついに、プロの大道芸人を目指そうと決意する。
「マグマが溜まるように、自分の中に大道芸への情熱が静かに溜まっていたんです」
プロになってやがて10年。大道芸の団体に登録し、仕事も入るようになった。年収はサラリーマン時代と変わらないという。
「土日は必ずイベントに参加し、平日も1日か2日は仕事。 残りは芸の練習です。あとは週1日、運送のバイトをしています」
37歳、連れ添うパートナーもいる。安定したサラリーマン生活を捨てた後悔は?
「ありません。たしかに大変なことも多いですが、人にやらされているわけじゃないですから。自分が選んだ仕事だから、頑張れるんです。間違いなく、当時よりストレスは減りました」
(週刊FLASH 2018年11月20日号)