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今はフルデジタルで作画「吉田戦車」Gペンへの郷愁にふける
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.01.09 11:00 最終更新日:2019.01.09 11:11
パソコン登場以前に、マンガを描くために必要だったもの。原稿用紙、鉛筆(シャープペンシル)、消しゴム、墨汁(インク)、筆、ペン先、ペン軸、カラスグチ(ミリペン)、ポスターカラー白(修正液)、スクリーントーン。
他にもあれば便利な道具はいろいろあるが、だいたいこれぐらいあればマンガは描けた。
私は今、フルデジタル作画に移行しつつあるのだが、その直前までは、紙に描いた絵をPC内にスキャンして、画像加工ソフトPhotoshopで枠線引き、ホワイト、ベタ、トーン処理をして仕上げていた。
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つまり「昔の基本道具」のなかの、修正液、スクリーントーンはすでに使わなくなっていた。フルデジタルになると、道具はほとんどいらなくなる。
ペンタブレットで、PC上の仮想の「原稿用紙」に、直接下描き、ペン入れ、仕上げをしていく。金属のペン先にインクをつけて絵を描く、という特殊技能が必要なくなることには、さすがにかなりのさびしさを感じる。
私はおもにGペンを愛用してきた。いろいろ使ってみて、メインのペンはやっぱりGペンにおちついた。理由は、絵に「マンガっぽく、プロっぽく」見える強弱がつくからだ。今は知らんが、昔の少年・青年マンガの描線に一番大切なのは強弱であり、勢いだった(……ような気がする)。
この『ごめん買っちゃった』もそうだが、イラストはGペンは使わず、ミリペンとかトンボの筆ペン「筆之助しっかり仕立て」などで描く。
キャラを立たせたり、ストーリーを盛り上げたりする必要があるマンガ雑誌の連載だと、Gペンのペンタッチが、今どきのいい方でいえば、「バエる」ような気がした。マンガ雑誌映え。
ずいぶん前、PCがまだない頃にグロス(1グロス=144本)で買ったGペンが二箱、まだ残っている。タチカワとゼブラのもの。タチカワのほうは半分以上減っているが、ゼブラはあまり減っていない。
タチカワ使用時代が長かったわけだが、今はゼブラを使っている。ゼブラは、昔のペン先より今のほうが描き味がよくなっているので、グロスで買ったやつは使わず、新しいのを10本ぐらいずつ買って使っているのだ。
そんな、半生を共にしてきたともいえるペン先を、私はまったく使わなくなるのだろうか。メーカー各社には感謝してもしきれるものではなく、もう画材をあまり購入しなくなるかもしれないことに、うしろめたい気持ちはある。
フルデジタルの便利さは、もうどうしようもない。ただ、便利だけど作業時間が劇的に短くなるわけではないし、機械なんかいつぶっ壊れるかわからないわけだ。
たまには「Gペンの素振り」のようなことをして、アナログなマンガ描きというものを、手が忘れないようにしておく必要はあるかもしれない。
よしだせんしゃ
マンガ家1963年生まれ 岩手県出身「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。近刊に本連載の単行本『ごめん買っちゃった』(光文社)。そして、『忍風! 肉とめし2』(小学館)が発売中!
(週刊FLASH 2019年1月1、8、15日合併号)