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バレエとジャズで挫折…「ハイサワー缶」で再起した女社長
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.05.02 06:00 最終更新日:2019.05.02 06:00
「虹の橋をわたる前に もう1度青い空をみせて 力尽きて声も出ないけど あなたが来る事信じて眠る」
『まだ間に合うから~小さな命を救って下さい』という歌の、歌詞の一部である。ラブソングではなく、殺処分になる犬や猫の気持ちを歌ったものだ。
自らつづった詞の世界を、愛情をこめて歌っているのは、ハイサワーなどで知られる、博水社の3代目社長・田中秀子さん(59)。CDは、11年前に始められた、犬や猫を救うボランティア活動の一環として発売された。
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「17~18年前に、保健所にいた犬を引き取り、飼うように。それをきっかけにボランティア活動を始め、いまも殺されてしまう犬を引き取り、飼っています。
仲間と一緒に『チーム伝える』を結成して、小学校で講演したり、居酒屋のイベントで話したりしていて、私のライフワークです」
田中さんの最初の転機は、10代のときに訪れた。小さいころからクラシックバレエを習っていて、高校卒業後にニューヨークへのバレエ留学も決まっていた。夢は振付師。
だがその直後、腰と背中を痛め、4カ月近く入院した。背骨を痛めたことが、“致命傷” になった。
「バレエを続けられなくなり、やることがなくなってしまいました。高校卒業後はバレエと、ジャズダンスのクラスを教えていたので、ジャズがいつも稽古場に流れていました。
ジャズを聴いて育ってきたので、『マーサ三宅ヴォーカルハウス』に通い、自分でも歌い始めました。有名なライブハウスの『バレンタイン』からスカウトが来たのをきっかけに、出演依頼が増え、ジャズを歌う仕事をしていました」
だがその仕事が長く続いたわけではない。
「なまやさしい世界ではないし、やはりプロの人たちは、見れば見るほどすごい。この業界で食べていける力はないことを知りました」
1982年、ジャズを歌うかたわら、短大を卒業。父親が2代目社長の博水社に入社する。田中家は娘が2人。長女の田中さんは後継ぎでもあり、現在に続く大きな転機となった。
「本当に小さな会社。女のコって『家業を継ぐぞ!』という意志が弱いのかな? 私は特にそう、無責任。もし踊りを続けられていたら、会社を継がなかったかもしれない」
入社してからが大変だった。小さいころから慣れ親しんだ工場だったが、外から見るのと入って見るのとでは大違い。
「昨日までわかると思っていたのに、長靴を履いて工場に入ると、工場長さんたちの会話についていけない。専門用語が日本語に聞こえない」
勉強しなおすため、東京農業大学で醸造学を、税理士学校で法人税を学んだ。
「子供のころから会社 を継ぐ気でいたら、ちゃんと勉強をして、取ってつけたようなことはしなかったのでしょうが……」
2008年、病気の父に代わり、3代目社長に就任した。
「父は、『だいたい3倍にしておけばいい』。それしか言いませんでした。
父に意味を聞くと、『社員として雇うのは1人だが、たいてい奥さんがいて子供が1人いる。1人の人間を雇うことは、だいたい3人分の責任を持って会社を経営することである』と、そのとき教えてくれました」
女性の視点から、ダイエットやプリン体ゼロなど、健康を考えた割り材などを手がけ、2013年にはレモン果汁たっぷりの、「ハイサワー缶レモンチューハイ」を初めて発売した。
「ある意味では大失敗で、ある意味では大成功でした」
ビール需要が落ち、そのぶん缶チューハイに力を入れた大手が何種類も発売したため、スーパーなどでは置く棚がなかった。
そこで地元である東京・目黒の酒屋さんで売ってもらうと同時に、味の差別化を図る高級スーパーだけに売り込んだ。「成城石井」や「紀ノ国屋」などに置いてもらえたおかげで、受注が増えていった。
さて、田中さんの次なる勝負作だ。
「沖縄の新鮮なシークヮーサーを17%も入れた、日本一高くて美味しい缶チューハイ!」
価格は322円で、発売中だ。一般的なシークヮーサー果汁入りの缶チューハイの果汁含有量は、0.1%から1.5%ほどだという。17%も果汁が入ったフレッシュさ、味わってみたいものだ。
(週刊FLASH 2019年4月23日号)