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命を救うより「殺してしまえ」悪い奴らはこう考える

ライフ・マネー 投稿日:2019.05.28 16:00FLASH編集部

命を救うより「殺してしまえ」悪い奴らはこう考える

 

 以前、フィリピンの首都マニラで、郊外に暮らしている友人の車に乗っていたときのことだ。運転していたのは、彼が現地で出会って結婚したフィリピン人の奥さんだ。

 

 彼女は慣れた感じで運転していたが、マニラの交通事情は、経験したことがある人ならわかるのだが、本当にひどい。渋滞して1、2時間動かないなんてこともある。わずかでもスペースができれば前進するし、抜け道がありそうならば、強引に侵入していく。

 

 

 そうなると、必然的に運転も荒っぽくなる。日本では取材のときにレンタカーを使うぐらいの頻度でしか運転をしない私からしたら、これで事故にならないのが不思議でならない。気になって仕方ないので、聞いてみることにした。

 

「こんな運転していたら事故にあったりしない?」

 

「フィリピンは事故が多いのよ」

 

 事もなげに言う彼女に対し、「それならもっと安全運転すればいいのに」と思うのだが、強引な運転が当たり前の社会では、彼女だけが改めたところで意味がないのかもしれない。

 

 そう思えばどうでもよくなる一方で、彼女の回答を受けて、余計に気になっていたのは、フィリピンで事故が起きたときにどんなふうに処理されるのかだ。

 

「日本では事故が起きたら警察とか保険会社に連絡するんだけど、フィリピンではどういう処理の仕方をするのかな?」

 

「そんなの日本と同じよ……って、言いたいところだけど、違うところもあるの」

 

「どういうこと?」

 

 運転中ということでちょっと困った表情を浮かべていた彼女に代わって、友人が説明を続けてくれた。

 

「この国でも事故は日本と同じように処理されるよ。でもね、お金が安いんだ。死亡したとしても10万ペソ(約22万円)ぐらいの賠償金で済んでしまう。むしろ大変なのは相手の車が高級車だったときだね」

 

「どういうこと?」

 

「フィリピンだと、トヨタの新車で400万~500万円ぐらい。かなりの高級車になるんだよ。ほかの外車になったらもっと高いかも」

 

「こっちの物価水準からすると、相当な金額になるね」

 

「輸入車だと関税がかかって高級車になってしまう。つまりだね、修理代もかかるんだよ。群を抜いた金持ちなら自分の車の修理代なんて気にしないんだろうけど、なかには背伸びをしていい車を買っている人もいる。その車に万が一ぶつけてしまったら何を考える?」

 

「高くて修理代が払えない!」

 

「そうなんだ。数十万ペソ単位の修理代を請求されてくる。修理に使うパーツも輸入品で高価なんだ。それを知ってるから、高級車にぶつけた加害者は、法外な修理代を請求されたらたまらないって思って、その場から逃げちゃうこともある。おかしな話なんだけどね」

 

「でも、大事故になってしまったときはどうするの? そういうときのほうが車の損傷がひどいんじゃない?」

 

「そこが問題なんだよ。大怪我を負わせてしまった場合に、この国の人のなかに恐ろしいことを考えちゃう人もいるんだ。怪我をさせた相手から治療費を請求されるよね。加害者が考えるのは、相手がいつまでも病院に通ったり、半身不随とかの重症になった場合には、いくら請求されてしまうかわからない、ということ。そうなると、むしろ死んでくれたほうが10万ペソ(の賠償金)で安く済むって考えるんだ。その結果、重体の相手を轢き殺すってことも起きちゃうんだよね」

 

 命の値段が安いことよりも、命の価値をどのように思っているのかを考えると恐ろしくなった。奥さんのほうが、補足するように言った。

 

「フィリピンの人は事故を損得で考えてしまうんです。だから、相手が死んだ場合には修理費+10万ペソで考えるだけなんです。加害者は被害者の容態を気遣うよりも、お金のことで頭がいっぱいになるんです」

 

 帰りがけに友人から「パッと見で外国人ってわからないと、お前も事故にあったときに瀕死だったら、トドメ刺されちゃうから気をつけろよ」と言われた。

 

 私は主にアジアの旅先でよく現地人に間違えられやすいため、彼も冗談混じりに言ったのだろう。外国人だと大きな事件になりがちなので、警察もきちんと動いてくれるらしい。でも、そんなことは気休めにもならないが……。

 

 正義より自分の経済的なメリットを優先するという危険な思想に触れたことで、その後の取材でも「重体と死亡の境目」に注目するようになった。同時に、加害者側の考え方にも考えさせられた。

 

 

 以上、丸山ゴンザレス氏の新刊『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)をもとに再構成しました。教科書には決して載らない「危険思想」を体を張って体系化。悪いやつらの頭の中に迫ります!

 

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