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「地球は平ら」と考えるアメリカの非科学的な人たち

ライフ・マネー 投稿日:2019.05.30 11:00FLASH編集部

「地球は平ら」と考えるアメリカの非科学的な人たち

 

 米国には「フラット・アース国際会議」と呼ばれる、「地球が平ら」だと考える人たちの集まりがある。この国際会議は2017年11月、南部ノースカロライナ州で初めて開かれ、約500人が参加した。

 

 彼らは「フラット・アーサーズ(Flat Earthers)」と呼ばれている。テキサス工科大学のアシュリー・ランドラム博士は、フラット・アーサーズを研究している。

 

 2018年2月、世界最大の科学者団体とされる「米国科学振興協会(AAAS)」の年次大会のシンポジウムで、ランドラムさんの講演を聞く機会があった。

 

 

 AAASは科学と社会の橋渡しの役割を担い、世界で最も権威ある科学雑誌の一つ『サイエンス』を発行している。AAASの年次大会では最先端の科学の成果だけでなく、科学と社会にかかわる課題についても広く議論される。2018年の大会はテキサス州オースティンで開かれ、約1万人が参加した。

 

 ランドラムさんの発表によると、フラット・アース国際会議の参加者は白人男性が多かった。聖書の記述を言葉通りに受け止める傾向が強く、多くの人が地球の歴史は6000年と考えていた。

 

 一方で、教会などの組織的な宗教活動への不信感があった。
ユーチューブのビデオ(Eric Dubay:200 Proofs Earth is Not a Spinning Ball)を見て、フラット・アーサーになった人が多かったという。

 

 2019年4月時点で、このユーチューブが再生された回数は80万回を超えていた。映像は2時間に及び、「水平線や地平線はどこで見ても常に平らだ」という1番目の「証拠」から始まり、「地球が平ら」である「証拠」をあらゆる視点から200個紹介している。

 

 2時間見るのは大変だが少しだけでも見てみると、フラット・アーサーズの想像力と意欲に、驚きというかすごさを感じる。映像もよくできている。「違う世界」を垣間見ることができるので、お時間のある方はどうぞ。

 

 さて、フラット・アース国際会議の参加者はユーチューブがきっかけで「地球が平ら」と信じはじめた人が多いようで、子どものころの直感をそのまま信じているわけではなさそうだ。ただ、直感を信じる傾向は強いらしい。

 

 ランドラムさんたちのインタビューに対し、参加者の一人は「自分がこれまで行ったところは、どこも平らだった。それに、自分たちがものすごい速さで動いているなんてことはありえない」と話した。 

 

 自分の感覚が第一で、「地球の自転や公転を感じられなければ、それは存在しない」という結論になる。

 

 ほかの一人は「私が頼れるのは自分の目だ。その目で、はるか100キロメートル先の平原を見渡すことができる。これこそが地球が平らである証拠だ」と話した。そうした感覚あるいは直感を信じる心が、ユーチューブをきっかけに呼び覚まされたのかもしれない。

 

 ランドラムさんたちの研究によると、フラット・アーサーズは一般の人よりも「自分は論理的だ」と考える傾向が強かったという。

 

 政府や公的機関への不信感も強く、疑り深い性格だった。「自分は公式見解にだまされるほど、愚かではない」といった感じだ。「政府などが共謀して事実を一般市民から隠している」という「陰謀論」を信じやすい特徴もあった。

 

 フラット・アーサーズのお気に入りの陰謀論はこれだ。
「アポロ計画は、NASAが旧ソ連との宇宙開発競争に勝つためにでっちあげたものだ」

 

 この陰謀論では「月面着陸の映像は、NASAが映画会社をまき込んで巧妙に作り出したフィクション」ということになっている。

 

 アポロ計画がでっちあげだったとしたら、大勢のNASA職員が半世紀にわたって秘密を守りつづけているということだろうか。

 

 ランドラムさんたちのインタビューに答えた一人は「秘密を知っているのは上層部の一部だけで、ほかの大半の職員は、自分の仕事の本当の意味を知らされていないのだ。彼らもだまされている」と説明したという。いかなる批判があろうとも、常に、その反論を作り出していくのが陰謀論の特徴だ。

 

「地球が丸い」ことを疑うフラット・アーサーズの視点で見れば、宇宙から撮った丸い地球の写真も、そうした写真撮影を可能にした宇宙開発もすべて「でっちあげ」という結論になってしまう。

 

「アポロ計画陰謀論」を信じるのはある意味、必然なのだ。科学を疑う人たちの中でも、かなり極端なグループといえそうだ。

 以上、三井誠氏の新刊『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』(光文社新書)をもとに再構成しました。先進各国に共通する「科学と社会を巡る不協和音」という課題を描きます。

 

『ルポ 人は科学が苦手』詳細はこちら

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