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イクメンは離婚を増やす?減らす?北欧で相反する調査結果

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.07.21 16:00 最終更新日:2019.07.21 16:00

イクメンは離婚を増やす?減らす?北欧で相反する調査結果

 

 お父さんが育休を取ることで、育児負担が特に大きな生後間もない時期を、夫婦で協力して乗り越えることを期待するお母さんもいることでしょう。この経験が夫婦間の絆を深め、夫婦仲をより良くすると考えられますが、実際どのような影響を与えるのでしょうか。

 

 アイスランドの研究では、お父さんの育休取得が、その後の夫婦の離婚を減らすのかどうか検証しています。アイスランドは北欧の国で、やはり、お父さんの育休取得率が非常に高い国です。それでも、かつては育休を取るお父さんというのは極めて稀でした。

 

 

 そうした状況を変え、お父さんの育児参加を促すために、お父さんだけが取ることのできる1カ月の育休を2001年に導入し、2002年には2カ月に、2003年には3カ月へと少しずつ期間を延長していきました。育休中は、普段の給料の80%にあたる額を、給付金として受け取ることができます。

 

 この一連の改革で、お父さんの育休取得は大きく増えました。特に、育休取得日数に占める男女の割合という視点で見ると、この変化は大きなものだったようです。

 

 制度変更直前の2000年時点では、育休取得日数に占める男性の割合は3%に過ぎず、育休はお母さんが取るものと考えられていました。しかし、2001年の改革以降、この数字は上がり続け、2005年時点では、育休日数の3分の1は、お父さんが取ったものとなったのです。これは北欧諸国の中でも飛び抜けて高い数字です。

 

 この制度変更の効果を評価した研究者らは、制度変更直前に子どもが生まれた夫婦と、制度変更直後に子どもが生まれた夫婦の間で離婚率が異なるかどうか調べました。

 

 お父さんの育休取得が離婚率を下げるならば、育休改革後に子どもが生まれた夫婦の離婚率が下がっているはずです。

 

 日本と異なり、アイスランドでは法的な婚姻関係を結ぶ人は、子どもを持つ親の半数程度です。したがって、法的な婚姻関係にある夫婦のみならず、同居している事実婚の夫婦すべてを分析の対象としています。

 

 制度変更直前に子どもが生まれた夫婦は、出産5年後時点での離婚率が23%でした。一方、制度変更直後に子どもが生まれた夫婦は、出産5年後時点での離婚率が17%にとどまりました。

 

 出産10年後時点で見ても、育休改革により、離婚率が33%から29%に下がっています。この結果は、育休改革にともなうお父さんの育休取得が、夫婦関係の安定につながったことを示しています。

 

 心理学、社会学といった分野の研究では、子どもを持つことが、結婚に対する満足度を引き下げたり、離婚率を引き上げたりするのではないかといった指摘がなされてきました。

 

 子どもを持つことによって、夫婦だけで過ごす時間が減ってしまうこと、自分のために使える時間とお金が減ってしまうこと、そして妻は自分のキャリアが犠牲にされてしまうことなどが理由です。

 

 お父さんが育休を取ることにより、お母さんだけが育児に関わるのではなく、夫婦ともに関わることでこうした不満をやわらげ、夫婦関係を良いものにすることにつながったというのが、この論文の著者らの見解です。

 

■父の育休取得で離婚が増える可能性も

 アイスランドでは、お父さんの育休取得が離婚率を下げることにつながったことが明らかにされましたが、これは他の国でも当てはまるのでしょうか。実は、スウェーデンでも同様の研究がなされました。

 

 スウェーデンでも、1995年の育休改革で、お父さんの育休取得率は大幅に上昇しました。育休改革直前に子どもが生まれた夫婦と、直後に子どもが生まれた夫婦のその後を追跡し比較した結果、アイスランドとは逆に、スウェーデンでは離婚率が上昇したことがわかりました。

 

 育休改革直前に子どもが生まれた夫婦が、出産後3年以内に離婚する確率は12%でしたが、直後に子どもが生まれた夫婦については13%と高くなっています。これは育休改革によって離婚が1%ポイント増えたことになります。

 

 改革前の離婚率が12%だったのですから、これは決して小さくない変化です。一方で、5年以内の離婚率で見ると大きな差はありません。したがって、出産5年後には離婚していたであろう夫婦の一部について、離婚までの期間が3年以内に前倒しされたと見なすことができます。

 

 論文の著者らは、いずれ離婚する夫婦の離婚時期が早まったのであり、育休改革が離婚件数そのものを増やしたわけではないという解釈をしています。

 

 こうした離婚の前倒しが起こった理由として、著者らは3つ取り上げています。

 

 1つは、お父さんが育休を取って、夫婦でともに過ごす時間が増えた結果、実はお互いの相性が良くないことに気がついたというものです。

 

 もう1つは、お父さんが育休を取り、育児に関わることが、お父さん本人にとって大きなストレスとなったというものです。お父さんには大きな役割の変化を迫るものですから、それを大きなストレスと感じたお父さんもいたのかもしれません。

 

 そして3つめの理由は、家計所得が減ったことです。お金があれば避けられる面倒も、お金がない中では大きなストレスとなって夫婦に降りかかり、結果、夫婦仲を悪くしたのかもしれません。

 

 アイスランドとスウェーデンは、ともに家族政策に前向きな社会というイメージがありますが、ここではかなり異なった結果が出ています。なぜこうした違いが生まれているのかは、現在までのところ明らかになっておらず、今後のさらなる研究が必要です。

 

 以上、山口慎太郎氏の新刊『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(光文社新書)を元に再構成しました。出産や子育てにまつわる科学的根拠を一切無視した「思い込み」の実態に迫ります。

 

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