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LINEスタンプはなぜ爆発的に広まったのか、その理由を考えよう

ライフ・マネー 投稿日:2019.09.05 11:00FLASH編集部

LINEスタンプはなぜ爆発的に広まったのか、その理由を考えよう

 

 もはや「社会インフラ」にまで成長したLINEの、新規ユーザー獲得と収益の確保に、多大なる貢献を果たしたのが「スタンプ」です。

 

 LINEが登場する以前、いわゆる「ガラケー(二つ折りケータイなどのフィーチャーフォン)」が主流だった時代から、絵文字や装飾を施した「デコメ(デコレーションメール)」は存在しました。

 

 

 ですが、ケータイの機種によってうまく表示されなかったり、ちゃんと相手に届かなかったりといったトラブルもありましたし、「小さすぎてよく見えない」との声もよく聞かれました。

 

 そんななかで登場したLINEのスタンプは、「感情」を気軽に、ワンプッシュで伝えられるとたちまち評判に。これを「『インフォメーション(情報)』でなく『エモーション(感情・気持ち)』を伝える、画期的な発明だ」と見る識者も大勢います。

 

 LINEスタンプの始まりは、2011年10月。サービス開始から3カ月後です。当時、私は30~40代の主婦に調査を行っていました。彼女たちから聞こえてきたのは、こんな声です。

 

「ママ友(ママ仲間)から、LINEの有料スタンプが送られてきたんです。私も何か、新しいの(スタンプ)を買って、送り返さないと悪いかなと思って……」

 

「パート先の友達が、LINEの有料スタンプをプレゼントしてくれた。それがすっごく可愛いんですよ。今お返しに、どのスタンプを贈るべきかって迷ってます」

 

 LINEのスタンプには、有料と無料の2種があります。有料スタンプは購入すれば半永久的に使用できるうえ、友達にプレゼントすることも可能。一方の無料スタンプは、おもに企業が広告効果を狙って提供しているため、数や種類が限られるほか、「期間限定」で消えてしまうものも多々あります。

 

 よってユーザーの多くは、先の主婦のように、有料のスタンプをLINEのアプリ内で購入、自分のスマホ上に保存したり、LINE友達に送信したり、あるいは友達にプレゼントしたりもします。

 

 ある情報サイトによると、LINEの1ユーザーあたりのスタンプ購入額は、年間平均で132円だそう(2016年7月「東京カレンダーWEB」)。

 

 一人ひとりは大した出費の実感がなくても、LINE側の売上はバカになりません。仮に国内8000万人のユーザーが、毎年132円ずつスタンプを買うとすれば、その額はなんと、年に約106億円! すべてがLINE側に残るわけではありませんが、仮にそのうち3割しか手元に残らないとしても、スタンプだけで毎年約32億円の利益を確保できます。

 

 その後に登場した、ゲームのアイテム(おもにゲームを有利に進めるために必要な武器やパワーなど)も同じ。

 

 取材した主婦や若者からは、「この前、LINEゲームのアイテムをもらっちゃったから、私からも買って返さなきゃ」といった声や、「一方的に、こっちばっかりがゲームアイテムもらいっぱなしってわけにいかないし」といった声があがりました。

 

 なぜ彼らは「送り返さないと悪いかな」と感じたり、「お返しに、スタンプやゲームアイテムを買おう」と考えるのでしょうか? 

 

 理由の一つは、マーケティングや行動心理学で言われる「返報性の原理」にあるのではないか、と考えられます。

 

 たとえば、皆さんが今から2カ月前、ある異性と交際を始めたとします。初回のデートは、お洒落なイタリアンレストランで、相手が全額ご馳走してくれた。皆さんはおそらく「悪いな」と思い、「次はこちらが奢るべきかな?」と迷うのではないでしょうか?

 

 これこそが「返報性の原理」です。人は、誰かに何らかの施しを受けた際、「自分もお返しをしなければ」とつい感じてしまう。

 

 よく例にあがるのは、スーパーや百貨店のデパ地下で行われる「試食・試飲」や、通販の「サンプル無料プレゼント」。売る側が、タダで何かを提供したり、してあげたりすることで、相手に「悪いな」「お返しに何かしなきゃ」と感じさせ、「一度ぐらい買ってあげようか」と購買を誘う手法です。

 

 LINEでも、相手から有料のスタンプが送られてきたり、プレゼントされたりすれば、「知り合いのあの人が、私のために尽力・出費してくれたのだから、自分もすべきでは?」と考えやすい。

 

 しかも、やり取りするのがクローズドな環境なので、「周りのみんなが有料のスタンプを送り合っているのに、自分だけが送らなければ『失礼』だし『仲間はずれ』になるかもしれない」……。それぐらいならと、時として有料のスタンプも買うでしょう。

 

 ちなみにこれは、デートでも同じ。男性に「初デートから公平にワリカンでいいですよね」と相談を受けることも多いのですが、私はよくこう答えます。

 

「うーん、悪くはないけど、次のデートにつながる可能性は低くなりますよ」

 

 なぜなら、初デートで奢ってあげれば、返報性の原理によって、相手は少なからず「次は、私が奢るべきかな」と考えやすい。奢られた女性は、おのずと次のデートを「断りにくく」なるのです。

 

 

 以上、田中道昭氏、牛窪恵氏の新刊『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? マーケティングでアマゾンに勝てる日本企業たち』(光文社新書)を元に再構成しました。アマゾン分析の第一人者と、トレンド研究の第一人者が、マーケティングの秘策を徹底解説します。

 

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