東京屈指の高級住宅街・田園調布(大田区)。ここにも、全国から “患者” たちが訪れる「ゴッドハンド」がいた。ブタ、カエル、サル……。とある午後に訪れると、待合室は順番を待つ珍獣たちで大賑わい。
「長年獣医師をしていますが、これは初めてのケースでした」
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オスのマイクロブタの去勢手術を終えた、獣医師の田向健一氏(46)が振り返った。
「睾丸が確認できなかったんです。開腹すると、膀胱の裏側に、萎縮した小さな睾丸がありました。毎日診察しながら、新しいことを学んでいます」(田向氏、以下同)
田向氏が院長を務める「田園調布動物病院」を訪れるのは、イヌやネコが4割。あとは、いわゆる珍獣ばかりだ。
「体長1cm、体重1.5gのアマガエルの開腹手術をしたことや、重さ70kgあるカメの膀胱から、石を取り除いたこともありました。このときは、甲羅の腹側から鋸で切って、工業用のパテで接合しました」
「カエルの顔を見て健康状態までわかる獣医師は、日本に5人もいない」と田向氏。北海道や、韓国からも “患者” が訪れることがある。
「1日に、多いときは100組前後。私を含めて5人の獣医師と、6人の動物看護師で、3組まで同時診察しています」
大忙しだが、田向氏の表情は冴えない。
「フクロモモンガにブドウしか与えず、骨粗鬆症にしてしまったり、カエルに消化できない白米を与えていたり……。飼い主が、病気の原因をつくっているケースも多いんです。
カワウソもいま人気ですが、簡単に飼育できる動物ではありません。しっかり飼える人だけがペットを飼う社会になってほしいですね」
ペットブームの知られざる一面だ。以下では、取材日の田向氏の午後診療を追う。
●13:00/去勢手術に来たマイクロブタ
生まれて半年。いま人気の「ブタカフェ」勤務のスイートくん。麻酔を嗅がされ、おとなしくなる。手術時間は15分前後。今回の手術費用は5万円だという。
●15:00/腹痛に苦しむチンチラ
皮下点滴し、イオンや水分を補給。
「人間が風邪を引いたときに、点滴を打つのと同じです」(田向氏)
●16:40/代謝病で膨らんでしまったクランウェルツノガエル
14歳のクランウェルツノガエル。代謝が悪く、腹水が溜まっていた。注射器で60ccの水分を吸引し、症状は改善。
●17:50/健康診断に来たフェレット
飼い主は田向氏の執筆したフェレットに関する本を読み、この病院まで健康診断を受けさせに来た。触診を中心に、健康状態を確認。
●18:20/通院歴10年以上のピグミースローロリス
東南アジアに生息する珍しいサル。かなりの高齢で、体調も優れないため、定期的に点滴を施しているという。
●20:00
夜も来院者は絶えず、閉院時間を過ぎても待合室は満員。
(週刊FLASH 2019年11月12日号)