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信長は望遠鏡を知ってる、知らない? NHK時代考証の専門家が語る歴史ドラマの裏側

ライフ・マネー 投稿日:2016.07.24 10:00FLASH編集部

信長は望遠鏡を知ってる、知らない? NHK時代考証の専門家が語る歴史ドラマの裏側

写真:AFLO

 

「史実は曲げられませんが、資料が残っていない部分は演出のさじ加減」

 

 こう話すのは、NHKドラマ番組部の大森洋平氏(57)。1万人の職員がいるNHKで、唯一の時代考証の専門家だ。

 

 たとえば、大河ドラマ『真田丸』の第24回(6月19日放送)で、北条氏政に降伏するよう必死に説得したのが、堺雅人演じる真田信繁だった。このシーンを見て、「おや?」と思った方は歴史通。史実では、交渉にあたったのは黒田官兵衛だからだ。

 

「信繁は『非公式に』交渉したことにすれば問題ない、とプロデューサーに具申しました。時代考証とは、登場人物の服装、行動、話し方などの枠組みを決める作業です。その枠の中では、自由に遊んでもいいんです。あくまで史実に引っかけた『ファンタジー』ですから」(大森氏、以下同)

 

 歴史を完璧に再現するより、その時代になかったものを出さないようにするのが、時代考証の重要な仕事なのだ。

 

「以前、ある大河ドラマで、織田信長のそばに望遠鏡が置いてあった。南蛮貿易を奨励した信長らしいとも思えますが、じつは望遠鏡は関ヶ原合戦ののち、10年後ぐらいに発明されたもので、出てきてはいけないんです」

 

 では、人気の『真田丸』では、時代考証がどう生かされているのか。

 

●三谷氏、じつは歴史通!? 台本はこうして完成する

 

 三谷幸喜氏の脚本は、おふざけがすぎるのでは? と思われがちだが「三谷さんほどいろいろな史実をうまく噛み砕いて入れている脚本家はいない」。ただし、時代考証的におかしい部分は「考証会議で審査し、意見を具申します」。それを踏まえ、第一稿、第二稿…と書き直し、台本が完成する。

 

●信繁の幼馴染み、きりのセリフが現代語のように聞こえる!?

 

「奔放キャラ」のきり(長澤まさみ)。人質となり、信繁が助けに来た際には「助けに来てくれたのね〜、やだぁー!」と抱きついた。「じつは、仲間内と公の場、年齢によってもしゃべり方を使い分けているんです。その時代になかった言葉は使っていません。たとえば、『必要』は明治時代になってできた言葉。『肝要』『なくてはならぬ』などと言い換えます」。

 

●フィクションはどこまで許されるのか?

 

 信繁が北条氏政(高嶋政伸)に降伏を迫る場面や、第9回の徳川家康(内野聖陽)と氏政が肩を抱き合い和睦する場面は、三谷氏によるフィクションだ。「しかし、『会っていなかった』という明白な証拠がなく、会っていたかもしれない時間的・空間的な空白があれば、そういう場面を描いてもいいのです」。

 

●ワイルドすぎるその衣装、昌幸は本当に着ていた?

 

 真田昌幸(草刈正雄)はいつも毛皮のベストを着ているが、史実に沿ってる?「実際に着ていたなんて記録はないが、あの時代にあったもの。人物のキャラを際立たせるため着せました」。なお、本多忠勝(藤岡弘、)が巨大な数珠を首から下げている姿もインパクトがあるが、こちらは肖像画をもとにデフォルメしたものだ。

 

●「真田」といえば十勇士だけど、どうして出てこない?

 

 忍者の登場を期待していた方もいるのでは?「真田十勇士は明治・大正時代、立川文庫という講談本が広めたフィクション。それに、10人ぜんぶ出しちゃうと、たぶん活躍しない人が出てきちゃうでしょう(笑)。そんなわけで、唯一、佐助(藤井隆)だけが登場しています」。

 

●食事のシーンは苦労だらけ

 

「白菜は日清戦争のあとに渡来したもので、当時まだ食べられていなかった。絶対に時代劇に出してはいけないものなんです」。ちなみに、この時代は武士の家族が一つの部屋で食事をすることはなかったので、『真田丸』にもそういうシーンは出てこない。

 

●秀吉が「悪人」、家康が「好人物」といった斬新な設定

 

「従来、秀吉(小日向文世)は『明るい努力家』と描かれることが多かったが、今回は正室の寧(鈴木京香)が、『もともとあの人は怖い人』と言う。小日向さんの目だけが笑っていない名演もあり、孤独な感じがよく出ている。逆に『我慢の人』とされがちな家康(内野)は、情けなくて温かい面を見せる好人物。非常に斬新で、これは三谷さんの『技あり』ですね」

 

●クライマックスは大坂の陣!? 伝説の「真田丸」はどう描く

 

 大坂の陣で、信繁は難攻不落の出城「真田丸」を築き、東軍を苦しめる。「皆さんが唸るような、すごい秘密兵器も出てくるでしょう」。近年の研究では、真田丸は従来の説より巨大だったという。さて、どう描かれる?

 

(週刊FLASH 2016年7月12日号)

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