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吉田戦車、フランス旅行でダサい「パリTシャツ」を買う
連載FLASH編集部
記事投稿日:2018.09.05 11:00 最終更新日:2018.09.05 11:00
夏休みにフランス旅行をした。私はどちらかといえば、海外旅行にあまり興味がない。今回の旅行は、娘の友人家族がお父さんの海外赴任のため、数年パリに住んでいる、という縁で実現した。
「おれ、ネコと留守番してるわ」
はじめは迷うことなく辞退した私だったが、さすがにそうもいかず、同行することになった。
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様々な手続きはすべて妻の伊藤が、あちらの友人ママと打ち合わせつつ進めており、私は小学生の娘と同レベルで、迷子にならないようついていくだけである。
買いものも、ほとんど妻がしてくれる。何回かフランスに来ているので、語学力などまったくないなりになんとかしてしまうのはたのもしかった。
自分では、ルーヴル美術館のショップで、絵がメインのデッサンの本を買った。それなりに美術欲をそそられたわけだが、帰国後はその向上心をすっかり忘れ、ぜんぜんページをめくっていない。
レジでは、そういう世界中の客慣れをした店なので、女性の店員さん「アリガトウゴザマシタ」私「あ、サンキュー、メルシー」などという、ありがちなやりとりをした。
ルーヴルをはじめ、パリの観光地で世界中の人間を見るのは楽しかった。「こんなに多種多様な人間がいるのか、世界!」と思った。
テロ警戒のため、自動小銃を持った軍人を目にして、「恒久平和を実現するのはたいへんだが、世界もちょっと気合い入れてがんばらないとな」と思ったり。
そういうことを思うだけでも、出不精の人間が海外旅行をする価値はあるのかもしれない。
浅草など観光地で、日本人が買わないようなデザインの衣類を売っているのと同様に、フランスでは胸に「PARIS」と書かれたTシャツが多数売られている。
これは買おう、と思った。エッフェル塔やルーヴル美術館近くの売店にたくさん並んでいたが、そこでは買いそびれた。なにしろ言葉がわからないので(英語を話せる店員もいるようだが、英語も話せない)、物欲のエンジンがなかなか暖まらない。
けっきょく、3日滞在した英仏海峡に面した海辺の町、トゥルーヴィルのスーパーで買った。「モノプリ」という、日本での西友とかイオンとかそういうポジションのスーパーだ。
エッフェル塔のイラストの上にPARISと字があり、花火っぽくデザインした各国の国旗に囲まれている。25ユーロ。3200円ぐらいか。高いな。友人ママが「こう言っちゃ悪いけど、ダサいです」とうれしそうに言う。
帰りの空港の売店では、パリTシャツが15ユーロとか20ユーロで売られていて悔しい気持ちになったが、デザインのダサさに欠ける。思いっきりが悪い。ノルマンディーの海辺の町で買って正解だった、と思った。
帰国後、飲み会に着ていったら「パリ」「パリだ」「パリかよ」と突っ込んでもらえたので、買いものの目的は果たせた。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。最新刊『忍風! 肉とめし 1』『来れば? ねこ占い屋』(ともに小学館)が発売中!
※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2018年9月11日号)