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美術をもっと自由に「オンライン・アート」の時代がやってきた
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.11.03 11:00 最終更新日:2020.11.03 11:00
昨今では、20代を中心とする若年層の「脱消費」化が進んでいます。象徴的事例である「若者の自動車離れ」では、運転免許保有者の自動車保有率が30代で77.0%、40代で79.8%です。それに比べると、29歳以下では57.5%という低い数値に留まっています。
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同様の指摘は、腕時計やブランド衣料などを始め、枚挙にいとまがありません。多くの著作や論考ではその要因を、「『失われた20年』に育ったがゆえの費用対効果意識の高さ」や「ファスト・ファッションやPB商品、LCCなど廉価で便利な製品・サービスの普及」であると述べています。
一方で、ネットから得た情報が促す「既視感による(消費)意欲減退」や、SNSでの承認欲求を満たす「モノよりもコト、楽しい体験」を挙げる声も少なくありません。果たして今回のコロナ感染拡大は、若者の「モノ:所有」から「コト:体験」へのシフトを、さらに推し進めていくことになるのでしょうか。
アートの世界でも、所有ではなく、体験を提供するサービスが始まっています。
インテリア・デバイス「FRAMED」(以下、フレイムド)は、額縁型の専用デバイス(配信機器)により、デジタル・アートを壁にかけて楽しむことを可能にした新しいサービスです。
2015年に米国のクラウドファンディング・サイト「Kickstarter(キックスターター)」で、目標額の7万5000ドル(約825万円)を大きく上回る、およそ53万ドル(約5800万円)の資金調達に成功したことでも大きな話題となりました。
ユーザはオンライン・アートギャラリー・サービス「FRAMED GALLERY」を通じ、気に入った作品を購入し再生・鑑賞することができます。料金はデバイスが9万円で、作品はエディション(限定)数によって、2000~1万円台までまちまちです(いずれも税抜き・2020年8月現在)。
他方、先行するフレイムドに対し2020年5月にスタートしたのが、名画からオリジナル・アート作品までを幅広く閲覧できるオンライン・アート・プラットフォーム「VALL」(ヴォール)です。
同サービスには、世界中の美術館が公開しているパブリック・ドメイン(著作権フリー)作品から、キュレーターが厳選した1500点以上が収録されています。ゴッホなど誰もが知る著名なアーティストの作品から、隠れた名画まで他社の同類サービスを圧倒する豊富な作品ラインナップが最大の魅力です。
若手を中心とするアーティストたちが参加する「VALL Now」では、作品投影時間に応じて月額利用料の一部をアーティストへ還元するシステムも備えています。お気に入りのアーティストを応援するという楽しみ方も、同サービスならではの特徴です。
また、「VALL Device」(3万6000円)を利用すれば、接続するだけでどんなモニターにも作品投影が可能。同機器には「4K出力対応」や「ホワイトバランス調節」、「フレーム・アジャスト(サイズ、トリミング自動調整)」といった諸機能が備えられているため、最高の鑑賞体験を手軽に実現することができます。
加えて、直接壁にかけられる、いわゆるフレーム形式のHD投影用スクリーン「VALL Frame」(7万2000円)も用意されています。気になる利用料金ですが、プレミアム・コンテンツを利用する場合は月々2980円の定額制で、パブリック・ドメイン作品(一部オリジナル作品も含みます)のみの利用は原則として無料です(いずれも税抜き・2020年8月現在)。
これらの「所有を超えた」新しいサービスは、今回のコロナ禍を契機として若い世代を中心に普及・拡大していくのか、引き続き注視したいと思います。
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以上、宮津大輔氏の新刊『新型コロナはアートをどう変えるか』(光文社新書)をもとに再構成しました。アート・コレクターであり、横浜美術大学学長でもある著者が、ウィズ/ポスト・コロナ時代のアート界を予測します。
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