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注目の若手論客! 斎藤幸平「共産主義のすすめ」(1)SDGsの欺瞞! 資本主義で「エコな暮らし」は無意味である
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.08.10 11:00 最終更新日:2021.08.10 11:00
「SDGs」(持続可能な開発目標)という言葉を至るところで耳にするようになった。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を実現するための17の目標のことである。
シンプルで聞こえのいい理念だが、かつてマルクスが唱えた言葉「宗教は大衆のアヘンである」を用いて、「SDGsは大衆のアヘンである」と警鐘を鳴らす新進気鋭の学者がいる。30万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)を著した経済思想家・斎藤幸平氏だ。
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斎藤氏いわく、環境配慮のヴェールを被って結局は私たちに消費を促す経済活動に悪用されるスローガンになる危険があるという。その真意を聞く。
ーー利潤を求めるあらゆる経済活動は、いかにエコやエシカル消費などをうたったところで結局は地球環境にとって無意味は試みになるのでしょうか?
例えば、私たちがエコバッグやマイボトルを使ったところで、二酸化炭素を減らすという観点からはまったく意味がありません。それどころか、企業はエコバッグをおまけや付録にして、私たちを消費に駆り立てています。そのうえ、エコバッグを持っただけで、私たちはなにか環境にいいことをしたと勘違いしてしまう。そうした環境への配慮を装った欺瞞は「グリーン・ウォッシュ」と呼ばれています。
実際、現状のSDGs、とりわけ日本での状況は、企業によるマーケティングやブランディングの道具になってしまっていますよね。消費者に発信されるメッセージが「うちの製品は環境に配慮しているしリサイクルもするので安心してもっとたくさん買ってください」という内容になっているので、結局、人々は今まで以上に洋服を買ったり、コンビニで買い物したり、ハンバーガーを食べたりしてしまう。これでは環境にさらなる打撃を与えるだけです。
例えば過去15年のうちに、世界の洋服の年間生産量は倍増し、ファストファションの洋服は使い捨てられるようになってしまいました。これをもう一度、半分にまで減らしていかなければなりません。15年前だって、私たちは十分な服をもっていて何の不自由もなかったのですから。その頃はコンビニだってこんなに多くなかったわけですし、やたらにステーキを食べる習慣もなかった。大きくなりすぎた経済そのものにメスを入れないといけません。
ところが、それは資本主義にはできない。結局のところ、各国首脳も大企業も、経済学者たちもみんな、資本主義のもとでも持続可能性と経済成長は両立すると言いたいわけです。一方、科学者たちは、経済成長を求め続ければ、二酸化炭素の排出を減らせないと指摘しています。
ーーSDGsは端的に間違っているのでしょうか?
SDGsに含まれる理念がすべて間違っているわけではありません。貧困をなくそう、人権尊重、ジェンダー平等を実現し、きれいな水へのアクセスを確保しよう、プラスチックを減らそうという内容には、完全に同意します。ただ、現在の日本でのSDGsの捉え方というのは、「持続可能性を維持しつつ経済成長を目指す運動」という極めて一面的なものになってしまっていて、言葉としてはこれほど広まっている割に内実はよく知られていない単なるスローガンに留まっています。それに、さっきも言ったように企業による「グリーン・ウォッシュ」の道具になりさがり、人々の罪悪感をごまかす免罪符になっています。
かつてマルクスが、資本主義の現実が引き起こす苦痛から目を逸らさせる「宗教」を「大衆のアヘン」と言ったことに倣い、「SDGsは大衆のアヘン」だという一文で、『人新世の「資本論」』を始めているのはそういうわけです。
だから巷で盛り上がっているマーケティング・ツールとしてのSDGsの空騒ぎに飲み込まれずに、より大胆なアクションをみんなで起こしていかないといけません。当然、現在の資本主義システムから莫大な恩恵を受けている企業や政治家に任せていては実現できません。
ーー持続可能性(S)と成長(D)は相いれないということでしょうか?
そうです。SDGsの第8のゴールでは、経済成長を持続可能な形で続けていくと謳われていますが、私は先進国においては、さらなる経済成長が必要だとは思いません。
ただ、「環境のために、経済成長をあきらめるべきだ」というと、「じゃあアフリカに今のままで止まれというのか」という反論が飛んできます。じつは、私はそういうことは一言も言っていない。途上国に成長は必要です。
これまで犠牲になってきた途上国はさらに経済成長する必要があるからこそ、その余地を残すためにも、先進国はできるだけ早く脱成長型の経済へ移行し、途上国からの収奪をやめなくてはなりません。それが『人新世の「資本論」』でも強調したポイントなのです。
さいとうこうへい
’87年生まれ 経済思想史研究者。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。