中国のデータ共有サイト『百度文庫』に、トヨタ、日産、パナソニック、三菱電機などの内部資料が大量に流出していたことがわかった。驚くことに、流出した資料の多くに「社外秘」「機密」などと書かれていた。上海で、知的財産権問題に特化した法律事務所を運営する分部悠介弁護士はこう話す。
「百度文庫だけでなく、日本企業の内部文書が大量に流出しているのは事実です。多くは重要性が低いものですが、なかには非常に機密性が高い文書もあります」
実際、分部弁護士は日本企業から数十件に及ぶ相談を受け、百度文庫に削除要請をおこなっている。それにしても、なぜこうも簡単に機密が流出するのか。北京在住のジャーナリスト・角山奈保子氏によれば、百度文庫のシステムに理由があるという。
「百度のポイントは『財富値』と呼ばれますが、文書をアップロードするたびに3ポイント、文書がダウンロードされるごとに1ポイント獲得できるんです。ポイントが貯まるとほかの資料をダウンロードしやすくなる。また、情報提供者は、閲覧を無料か有料か選ぶことができるので、ちょっとした小遣い稼ぎのため、情報を流すんです。捏造情報でアクセスを稼ぐ人もいます」
また、中国の“無形財産”に対する意識の欠如も大きな理由だと分部弁護士はいう。
「中国では、無形財産を尊重しようという意識が全体的に低い。しかも、終身雇用がなく転職が当たり前ですから、そもそも企業に対する忠誠心も低い。それで、残念ながら『機密情報をおみやげにライバル企業に転職』ということが起きてしまう」
問題は、今回流出した情報より、はるかに重要度の高い機密情報が漏洩していることだ。
「具体的には申し上げられませんが、中国人従業員が重要な技術情報を持ち出し、中国企業がその技術をコピーして製造を始めたため、もともとその技術を持っていた日本企業のビジネスに大きな悪影響を与えた事例もありました。百度文庫に限らず、極秘の技術情報や顧客リストの流出など、深刻な情報漏洩の事例はたくさんあります」(分部弁護士)
産経新聞中国総局特派員の矢板明夫氏もこう指摘する。
「日本企業の開発部門に入れば簡単に製品情報を入手できる。とくに失敗例が大きな財産になります。成功例なら企業は特許を取って厳重に機密を守ろうとしますが、失敗例はそこまで秘密にしません。失敗情報を入手すれば、自分たちはリスクもなく製品開発ができるわけです。
また、交渉相手の日本企業の議事録が手に入れば、中国側は圧倒的に有利に交渉を進められる。情報を盗んだ当人は高額の報酬を受け取れるので、今後も日本企業の情報漏洩は続くでしょう」
(週刊FLASH 2013年9月3日号)