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1つのツイートで世界一の有名人になった女性「悔恨の日々」

社会・政治 投稿日:2017.02.27 17:00FLASH編集部

1つのツイートで世界一の有名人になった女性「悔恨の日々」

『写真:AFLO』

 

 ごく普通の無名の人が、ツイッター上で100人そこそこのフォロワーに向かい、少々品の悪い、無神経な冗談を言う。その後、大勢から寄ってたかって強く非難され、排除されてしまう。そんなことが数ヶ月の間に何度も繰り返された。幼い子供を抱え、ただ毎日真面目に働いているような善良な市民が、突然、大勢から袋叩きに遭ったのだ。

 

 私はそんな体験をした人たち一人ひとりに会って話を聞いた。
 3週間前、ジャスティン・サッコはヒースロー空港を経由する空の旅の最中に問題のツイートをした。それが、後に大変な事態を招くことになる。2013年12月20日のことだ。

 

 彼女はヒースロー空港で乗継ぎする直前、170人ほどのフォロワーに向け、こんなツイートをした。
「アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけない。私、白人だから!」

 

 彼女はそのまま飛行機に乗り込んだ。11時間のフライトだ。その間はほとんど眠っていた。着陸後、携帯の電源を入れるとすぐ、高校卒業以来話したことのなかった知人からのメッセージが目に飛び込んできた。
「こんなことになるなんて、とても悲しいよ」
 画面をよく見た彼女は驚いた。
「私の携帯の画面は恐ろしいことになっていました」彼女は言う。

 

 まだ飛行機がケープタウン国際空港の滑走路にいる間に、携帯の画面にはもう一つテキストメッセージが表示された。
「今すぐ電話して」それは親友のハンナからだった。「今、あなたはツイッターで全世界のトレンド第1位になっているのよ」

 

「ジャスティン・サッコのツイート、人種差別があまりにひどすぎて、恐ろしい。言葉も出ない。恐怖以上の何かを感じる」
「@JustineSacco というこのとんでもない女のことを皆に知らせるべきだ」……

 

 彼女の雇用主からは「あまりに非常識で、言語道断なコメントという他ありません。弊社の社員ですが、現在、国際線の飛行機に乗っており、連絡がつきません」というツイートがあった。それに対しても即座に反応があった。

 

 続いて、"#hasjustinelandedyet(ジャスティンはもう着陸したか)"というハッシュタグが全世界でトレンド入りした。

 

 わざわざ手間をかけて調べ、彼女がどの飛行機に乗っているかを突き止める者まで現れた。フライトトラッカーのサイト(飛行中の航空機をリアルタイムで追跡できるサイト)へのリンクが貼られたため、彼女の乗っている飛行機が今、どこにいるかを皆がリアルタイムで確認できるようになった。

 

「@JustineSacco の乗った飛行機があと9分ほどで着陸するみたいですよ。見物ですね」
「もうすぐ、あのバカ女 @JustineSacco がクビになるところが見られますよ。リアルタイムで。本人が知る前にクビになるかも」

 

 飛行機が着陸し、事態を知ったサッコは慌ててツイートを削除したが、その後には削除に関するコメントも見られた。

 

「ごめんね、@JustineSacco ツイートは一度書いたら、永久に残るんだよ」

 

 グーグルには、「グーグル・アドワーズ」というサービスがある。これを利用すれば、特定のキーワード、たとえば自分の名前が1ヶ月間にグーグルで何回検索されたかを調べることもできる。

 

 2013年10月、ジャスティン・サッコの名前がグーグルで検索されたのは30回だった。翌11月も1ヶ月に30回検索されていた。ところが、次の12月は、事件の起きた20日から月末までの間に、なんと122万回も検索されている。

 

 ケープタウン国際空港では、一人の男性が彼女の到着を待ち構えていた。彼は空港に現れたサッコの写真を撮り、ツイッターに投稿した。

 

「おお、 @JustineSacco がついにケープタウン国際空港に到着。変装のつもりかサングラスをかけている」

 

 サッコのツイートが盛んにリツイートされ始めたのは、彼女の飛行機が離陸してから3時間ほど経った頃だった。おそらくスペインか、アルジェリアの上空で眠っていた時だ。

 

 サッコのツイートは、そう出来の良いジョークではないし、褒められたものではないが、人種差別的なものでないことは明らかだ。有色人種を貶める意図はない。自分でも気づかないうちに特権意識を持ちがちな白人を笑う自嘲的なコメントだろう。

 

 サッコは謝罪声明を出した。身の危険を感じた彼女は、南アフリカへの家族旅行を予定より早く切り上げて帰ってきた。

 

「宿泊するホテルで姿を見たら襲撃するという脅しもありました。私の安全は誰も保証できないと忠告されたんです」

 

 インターネット上には、彼女は南アフリカの鉱山王、デスモンド・サッコの娘で、いずれ48億ドルもの財産を相続するのだという噂が駆け巡った。私もその噂は本当だと信じていた。だが、実際に顔を合わせたとき、彼女はこう言った。

 

「母は、私が物心ついた頃からずっとシングルマザーだったんですよ。母は客室乗務員をしていました。父はカーペットの販売をしていたそうです」

 

 サッコは続けた。

 

「本当に苦しいです。私は自分の仕事が好きでした。それを奪われたんですよ。問題が起きて最初の24時間は、あまりの辛さに大声で叫んでいました。心に負った傷はとても深いものです。夜もなかなか眠れません。夜中に目を覚ますことも度々で、そんな時は自分が誰だかわからなくなったりもするんです。突然、何もすることがなくなったんですから。私のスケジュールはまったくの白紙で何の用事もありません。何も……」

 

 彼女はここで言い淀んだ。

 

「……生きている意味というのがないんです。私は30歳です。良い仕事に恵まれていました。でも、今、予定は何もない。いずれ、完全に自分を見失います。私は独身ですが、この先、誰かとつき合うのも難しいでしょう。いくら隠しても、今はグーグルで検索すれば私がどういう人間なのかすぐにわかってしまう。事件のことを知れば相手は離れていくでしょう。もう私には新しい出会いなど期待できないんです。良く思われるわけはないのですから」

 

 以上、『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(光文社新書)より引用しました。
 自らの行動やコメントが原因で大炎上し、社会的地位や職を失った人たちを徹底取材。加害者・被害者双方の心理を深掘りし、炎上のメカニズムから、ネットリンチに遭ってもダメージを受けない方法、グーグルの検索結果から個人情報を消す方法までを探ります。

 

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』詳細はこちら

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