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保健所の「コロナ戦記」第3波で明るみに出た「夜間対応問題」…交代制24時間対応の消防隊との違い
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.01.05 11:00 最終更新日:2022.01.05 11:00
8時30分から17時15分まできっちり働く保健所において、もともと時間外の連絡先は難題の一つである。そもそも感染症担当として平時から登録が必要な相手先は、厚生労働省検疫所、厚生労働省結核感染症課のとりまとめている全国自治体感染症担当者連絡名簿、そして「ひまわり」(後述)である。
それぞれの組織からの連絡が少なければ問題ないが、多い場合は、ほぼ毎晩電話で叩き起こされることとなる。夜間や休日に対応しても、管理職の場合、夜勤手当も時間外手当もない。また連絡件数は保健所によって著しく差があるので、なかなか対応を統一しようとか、改善しようといった動きにならないままであった。
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そしてこれらの課題が解決されていない状況において、COVID―19は発生し、その大流行はこれらの課題を一気に深刻化させたのである。
「東京都保健医療サービス(通称ひまわり)」とは、東京都独自の24時間対応システムで、他府県にはないことも、都の公衆衛生医師特有の悩みの種である。
一般の方への医療案内や多言語対応サービスの他、精神保健や感染症、食中毒などに関する時間外の通報を受け付け、行政機関などへの取り次ぎを行っている。
保健所が閉庁する17時15分から8時30分までの連絡は、この「ひまわり」を経由して、各保健所が登録している電話(第1順位から第5順位までを登録することが可能)につなげることとなっている。ひまわり自体の夜間当直職員は、東京消防庁のOBなどが雇用され、通常は2名体制で勤務している。
感染症法に規定されている「速やかな届出」の義務がある感染症は、1~4類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症、及び5類感染症のうち、麻しん、風しん、髄膜炎菌感染症である。
とはいえ、この「速やか」のレベルをどう考えるかが問題である。実際のところ、東京都以外の自治体では宿直職員などが対応し、保健所が翌日朝に受け付けている状況である。
そして感染症については、医学的な相談が含まれるかもしれないので医療職、責任がとれる立場の人の方が安心という意味で管理職、という2点がいいように解釈され、各所にほぼ1名しかいない課長級医師が優先順位1番で登録されている保健所がほとんどであった。
■「ひまわり」がつながりません
COVID-19陽性者の急増により、夜間帯の病院からの発生届連絡、他自治体からの調査・健康観察依頼などがひまわりに殺到した。また病床や宿泊療養施設がひっ迫し、自宅待機者が急増するとともに、待機中に急変する人も増加し、救急要請された救急隊から保健所への連絡にもひまわりが使われる。
陽性者が増えるにつれて、診断された当日中に保健所から連絡が取れない人が増え、保健所から連絡が来ないと心配になった陽性者や濃厚接触者は、みな夜間に心配になり、保健所へ連絡を取りたいと発熱相談センターやひまわりに電話をする。
ひまわりの電話がつながらないと、つながるまで何度も電話をするので、さらに電話の回数が増え、さらに電話がつながらなくなる。この悪循環が止まらなくなってきた。
ひまわり電話問題をいち早く感染症対策部に強く訴えてきたのは、保健所よりも東京消防庁だった。そもそも保健所に連絡がつかない。そして連絡がついても対応してくれない、というのである。
社会機能維持者である警察、消防は、24時間対応体制が組まれている。加えて、救命救急士はそもそも医師の指示に従って処置を行うように訓練されている人々である。そして感染症法上、搬送と入院調整は保健所の役割となっている以上、彼らには保健所の指示が必要だということになっているのである。
しかし本来、ここで保健所に感染症法上求められているのは本人の病状についての医学的判断ではなく、隔離の必要性の判断である。一方、救急隊が求めているのは、医学的判断に基づく搬送の要否と、搬送先医療機関の選定である。
医学的判断をするといっても、パルスオキシメーターで測定する酸素飽和度、血圧、体温、脈拍、呼吸数といった基本的なバイタルサインしか手掛かりはない。それ以上の各陽性者の個人情報を、各保健所の課長が、夜間自宅で持ち合わせているわけがないではないか。
深夜に救急隊と話し合いながら、少ない情報のみで、病院に運ぶ必要があるのかどうかを判断するだけでも、精神的な負担になる。
加えて、入院先の医療機関を探すのも、保健所の役割ということになっていたため、近隣の病院リストを上から下から分担して電話をかけ続け、入院先を探すという作業も一苦労である。疲れ切った保健所の医師たちは、だんだんと救急隊とのやり取りを拒否するようになった。
日々新規陽性者数の最高値が更新される中、1日100件以上の発生に見舞われた保健所では、昼間の対応だけでなく、夜間の救急隊からの問い合わせと、入院医療機関探しに時間を取られ、機能しなくなってきた。
このため保健所長を経由し、複数の区の区長から、都知事への申し入れがあり、第1波の反省会の頃から課題となっていた「保健所による夜間の入院調整問題」が、ついにクローズアップされたのである。
■年末年始は都庁でステイホーム
この問題は、本来感染症に対する病床確保や救急医療体制、保健所機能そのものに関わる課題であり、感染症対策だけの話ではないのだが、どの部署も担当でないと言って引き受けず、結局、防疫・情報管理課が対応せざるを得ないとして命令が下ることとなる。
そこで職員を集めての突貫工事が始まり、急遽、2020年12月28日(月)から1月4日(月)の19時から翌朝7時まで、都庁内で、有志保健所職員による輪番制で夜間の入院調整対応を行うこととなった。19時以降、各保健所や消防庁からの依頼を受け、入院の要否を判断し、入院先の医療機関を見つかるまで次々と病院に電話をかけ、空床を探し続けるのである。
このおかげで感染症対策部の職員も年末年始は「家族でステイホーム」ならぬ「都庁でステイホーム」となり、家で家族と過ごす時間よりも、職場で同僚と過ごす時間の方が圧倒的に長いという状況が、より一層進行した。
一晩3~5名体制で、有志の保健所の所長や課長たちと、ひまわり経由で救急隊や医療機関、保健所からの電話を受け、医学的判断と搬送先医療機関の調整を行う。各保健所が苦戦しているとおり、入院先医療機関はなかなか見つからず、一晩に60カ所以上の病院に手分けして電話することもあった――。
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以上、関なおみ氏の新刊『保健所の「コロナ戦記」TOKYO2020‐2021』 (光文社新書)をもとに再構成しました。新型コロナ対策の第一線で指揮を執り続けた医師が、未曾有の事態で記録したこととは?
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