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私大半数「定員割れ」で新規開学を厳格化…SNSざわつくも「実は数字のトリック」本当に危ない大学は5%と識者指摘

社会・政治 投稿日:2023.04.07 11:00FLASH編集部

私大半数「定員割れ」で新規開学を厳格化…SNSざわつくも「実は数字のトリック」本当に危ない大学は5%と識者指摘

文科省の判断に注目が集まる(写真・AC)

 

 4月4日、文部科学省が、私立大学新設の審査を厳格化し、大学全体の規模を抑制する方針だと「読売新聞」が報じた。

 

 昨今、少子化の影響もあり、各大学では定員割れが続出している。「日本私立学校振興・共済事業団」のデータによれば、2022年、私立大学の定員割れは47.5%にのぼった。そのため、文科省は基準を見直し、新規開学を厳しくチェックする方針を決めたわけだ。

 

 

 つい先日、名門女子大である恵泉女学園大学が、入学者の定員割れが続き、募集停止を発表したことも記憶に新しい。私立大学の半数近くが定員割れというのも衝撃的だが、少子化のなか、大学がここまで増えたのはいったいなぜなのか。

 

 大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは、「少子化が進んでいるのは確かですが、大学進学者数が減ったかというと、逆に増え続けているんです」と語る。まずは、石渡さんが提示した、具体的なデータを以下に列挙する。

 

■大学進学率
1990年:24.6%
2022年:56.6%

 

■短大進学率
1990年:11.7%
2022年:3.7%

 

■高卒就職率
1990年:35.2%
2022年:14.7%

 

「数字のとおり、短大進学者や高卒就職者は、少子化の影響を強く受け、人数を減らしています。一方、社会の高度化・複雑化により大学進学率が上がり、需要が増し、大学の数も増えました。

 

 結果的に大学進学者はそこまで減っておらず、むしろ割合としては増えているんです。実際、1990年の大学進学者数は49万2000人、2022年には63万5000人、大学数は1990年に507校、2022年には807校と推移しています。

 

 一方、1990年には593校あった短大は、2022年に309校と半減しました。

 

 また、少子化のなか大学数が増えた大きな理由の一つが、女子の進学率上昇です。一昔前は、女性のライフプランといえば、高校から短大へ進学し、卒業後は一般職、20代で結婚して専業主婦に移行するのが主流でした。

 

 しかし、バブル崩壊や女性正社員の待遇改善などにより、一般職の枠が減り、総合職の枠が広がったことで、必然的に大学進学率は上昇しました。

 

 看護や医療系の分野で、大卒が基準になりつつあることも理由の一つです。1980年代から90年代までは、高卒や短大卒・専門卒でも看護師として就職できたんですが、時代が進むにつれ、IT機器が登場するなど、業務内容が複雑化しました。

 

 結果、教育期間が短いと就職がむずかしくなり、2000年代頃には、看護・医療系の分野でも、教育の中心を大学にする流れができあがったんです」

 

 大学進学率が上がり、需要が増え、大学数が増える。それ自体は正常なサイクルに見えるが、気になるのが、2022年に定員割れした私立大学が47.5%というデータだ。この数字にはSNSでもさまざまな意見が出ているが、たしかにこれでは、進学者数と大学数のバランスが取れていないのではないか。

 

 だが、石渡さんは「正直、これは数字のトリックです」と説明する。

 

「データ上、定員から1人でも欠ければ “定員割れ” と表現されます。しかし、入学直前になれば辞退者は当然出てくるわけです。もちろん、定員100人で30人しかいないなら危なっかしいですが、数人の辞退者が出た程度で経営が危ういとするのは、少々無理やりだと感じます。

 

 では、実際に “危なっかしい大学” は何校あるのか。

 

 つい先日、閉学を決めた恵泉女学園大学は、定員充足率が55.2%でした。2000年以降に募集停止・廃校になった大学16校のうち、8校は定員充足率が60%未満。

 

 つまり、定員60%に満たないというのは、大学経営において危険ラインの一つの目安ではないでしょうか。それでいくと、2022年時点で60%未満の大学は30校で、全体のたった5%です」

 

 この30校が即座に募集停止・閉学へ追い込まれるのかと言えば、そうとも言い切れない。現実には、大学を運営する学校法人の経済力にかかってくる部分が大きいという。

 

「学校法人は、大学以外にも小中高や短大・専門学校など、他の学校を持っています。大学単独で見れば赤字でも、法人全体が黒字であれば、定員割れでも大学を維持する学校法人は相当数あります。

 

 一方で、大学の赤字がひどく、他の学校にも影響が出そうであれば、閉学したほうが傷が浅いと判断する学校法人もあります。恵泉女学園大学は、まさにその流れでした。あそこは中学・高校がなかなかの進学校ですから、大学は閉じて他の学校を守る戦略を取ったんです。

 

 定員充足率が60%に満たないからといって、即募集停止につながるとも限らないのは、こうした事情があります」

 

 今後、大学運営をめぐる状況はどう変化していくのか。

 

「これからも少子化は進み、募集停止・廃校に追い込まれる、あるいは他大学との吸収・統合を選択する大学は、間違いなく一定数出てくるでしょう。

 

 しかし、大学の需要が減るわけではなく、むしろ数や進学率は上昇していくはずです。特に看護や医療系、IT、データサイエンス系の分野は人手不足が続いているので、その分野の大学は増えていくことが予想されます。

 

 ただ、やたらに数を増やせばいいわけではありません。そこで、新設抑制の話になってきます。今回のニュースは、要は入学希望者がどれだけ見込めるか、マーケティング活動をきちんとやりなさい、ということですね。

 

 民間企業では当たり前にやっていることですし、大学でも真面目にやっているところはやっている。そういう大学はきちんと生き残ります。

 

 ところが、2000年以降で募集停止になった16校を見てみると、開学から募集停止に至るまで10年未満の大学が8校もありました。これは、きちんとリサーチや事前準備をせず、明らかにノリと勢いで大学を作った結果です。

 

 今回のニュースは、そのあたりを厳しく審査していくという話で、個人的には当然の展開だと考えています」

( SmartFLASH )

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