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ロシア「胸像爆破テロ」で30人以上が死傷…専門家は「第2のモスクワ劇場占拠事件」を危惧

社会・政治 投稿日:2023.04.07 14:24FLASH編集部

ロシア「胸像爆破テロ」で30人以上が死傷…専門家は「第2のモスクワ劇場占拠事件」を危惧

工場視察をおこなうプーチン大統領。反戦運動への牽制か(写真・アフロ)

 

 4月2日、ロシア西部にあるサンクトペテルブルクのカフェで爆発があり、ロシアのウクライナ侵略を支持する評論家・マクシム・フォミン氏が死亡、30人以上が負傷するテロが発生した。

 

 テロ当日の様子は、当日会場にいた人物が撮影していた動画に収められており、SNSで拡散している。

 

 フォミン氏が登壇する集会で、1人の女性が、フォミン氏をモデルにしたという像をプレゼント。これに喜んだフォミン氏は、近くに座るよう声をかけたが、女性は拒否。その5分後に、胸像が爆発した。

 

 

 ロシア連邦捜査委員会は殺人事件として捜査し、爆発物を仕込んだ胸像を手渡した女を特定し、容疑者とした逮捕。そのうえで、容疑者の女性について「ロシアの反体制派指導者・ナワリヌイ氏の支持者」とし、ウクライナ情報機関の関与も主張している。

 

 筑波大学名誉教授で国際政治学者の中村逸郎氏が、テロ事件の背景について解説する。

 

「いま出ている限りの情報では、逮捕された女性の名前はダリヤ・トレポワ氏。モスクワで『これは秘密のものだ』と言われ、爆発物の入った胸像を受け取ったということです。

 

『モスクワ・タイムズ』などロシア側のメディアは、ウクライナ側から女性に指示があったと報じています。

 

 当初の計画では、胸像を渡した後、ウズベキスタンに出国し、そこからウクライナに向かう予定だったと報じられています。プーチン大統領はウクライナの犯行だと主張しているわけです」

 

 一方、4月4日には、「国民共和国軍」を名乗る反プーチン派の組織が、SNSを通じて犯行声明を出している。今回のテロについて、「外国の組織や情報機関の支援は受けていない」と主張している。

 

「国民共和国軍をつくったのは、ロシア連邦議会・下院の元議員のパノマリョフだとされています。彼は2014年、ロシアがクリミアを併合した際、下院で議決を取ったときに唯一反対を表明した “反プーチン派” です。結局、アメリカに亡命し、現在はウクライナ国籍を取得しています」(中村氏、以下同)

 

 パノマリョフは、2022年8月20日におきた “テロ” にも関わっていたという。

 

「プーチンの思想に大きな影響を与えているドゥーギンという人物の娘が、自動車に爆発物を仕掛けられて亡くなりました。

 

 パノマリョフは、そこで初めて『国民共和国軍』を作り、犯行声明を出しました。今回は、それと同じことが起きたわけです。

 

 ウクライナ政府は、フォミンシ氏の事件を “内輪もめ” といっていますが、つまりパノマリョフが率いるテロ組織とプーチン政権が “内輪で戦っている” という認識なのです」

 

 中村氏は、今後もロシア国内でテロ活動が頻発する可能性があると指摘する。過激化してゆけば、2002年に発生し、合計171名もの死者を出した「モスクワ劇場占拠事件」の再来もありうるという。

 

「モスクワ劇場占拠事件は、イスラム教徒たちが起こしたものだと言われています。イスラム教徒であるチェチェン人が、ロシアからの独立を目指す運動をしていました。

 

 それに対して、プーチン政権は徹底的に弾圧・抑圧政策をとりました。そうしたなかで、チェチェン人は大都市の地下鉄やアパートなどでテロ活動をしたんです。

 

 モスクワ劇場占拠事件は、その延長上での事件です。しかし、プーチンは、人質がまだ劇場に残っているのに通気口から毒ガスを入れました。テロリストも死亡しましたが、一般市民も犠牲になる痛ましい事件となったわけです」

 

“ムスリムの反発” という意味では、今回の戦争でも似たような状況になりつつある。

 

「この戦争に動員されているイスラム教徒たちのあいだで、『この戦争はプーチンの戦争であって、関係のない我々が巻き込まれている』という反感が高まっているんです。

 

 実際に、2022年10月中旬、あるロシア部隊でイスラム教徒の兵士が『この戦争は自分たちの戦争ではない』と司令官にかみついたことがありました。しかし、司令官は『アラーは臆病だ』と言ったため、イスラム教徒たちが司令官を撃ち殺し、20数名が亡くなりました。

 

 すでにイスラム教徒による “テロ” は起きているわけです。そして、『国民共和国軍』とロシア国内のイスラム教徒が合流したら、さらに大胆な形でテロがおこなわれる可能性が出てくるでしょう。

 

 彼らが反プーチンを掲げて一致団結し、都市部で “反戦テロ” を実行する。つまり『第2のモスクワ占拠事件』が起きる可能性があるわけです。

 

 プーチンにとっては、ウクライナという外敵に加え、国内にも敵を抱え込んでしまうという事態になります」

 

 当然、プーチンもこうした “反戦テロ” への警戒を強めている。

 

「これまでプーチンは民衆の前に出るのを怖がっていると言われていました。実際、暗殺がおこなわれる可能性は十分ありますからね。

 

 しかし、最近になって、プーチンはいろいろな集会に出没するようになっています。なぜなら、市民の前に出て行かないと反戦の機運を止めることができないと思っているからです」

 

 だが、中村氏は、国内テロが頻発してプーチン政権が瓦解したとしても、“暗黒時代” が訪れるという。

 

「いまロシアでは、反戦活動を担うはずのリベラルな若い層がどんどん外国に出て行っています。同じく金持ちも逃げてしまいました。

 

 プーチン政権が崩壊した場合、後任はワグネルグループを率いるプリコジンか、メドベージェフでしょう。彼らは『戦争をやったのはプーチンだ』と責任をすべてプーチンに押しつけるだけ。

 

 民主化運動が広がるような、明るい方向にはしばらく向かわないと思います」

 

 犠牲になるのは、いつも無辜の市民だ。

( SmartFLASH )

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