6月から始まったウクライナ軍の反転攻勢。これに対しロシア軍は、東部に10万人超の部隊を集結し、さらなる“カウンター”を狙っている。まさに血で血を洗う戦いだ。だが、じつは日本のネット上でも“親露派”と“ウクライナ支持派”の激しいバトルが日夜、繰り広げられている――。
「著名なロシア研究の先生を、つくば市内で無断で撮影し、その画像をSNSで拡散していたアカウントがあった」
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7月16日、自身のTwitter上で“脅迫事件”の発生を公表したのは、国際政治学者で筑波大学教授の東野篤子氏だ。
「『ロシア研究の先生』とは、中村逸郎筑波大学名誉教授のことです。ウクライナ侵攻によってロシアに批判的な立場でメディアに出るようになった私や中村先生、高橋杉雄さん(防衛研究所防衛政策研究室長)、小泉悠さん(東京大学専任講師)といった研究者に対し『嘘つき』などと、ヘイトを煽るような書き込みがSNS上にこれまでも蔓延していました。しかし今回、“ロシア擁護派”としてSNS上でよく知られるAというTwitterアカウントが、中村先生のプライベートな写真を撮影、投稿しました。これは脅迫行為で、一線を越えています」
A氏が投稿した写真を確認してみると、たしかに中村氏が、スーパーの駐車場で車の中で家族とともに座っている様子が写っている。この画像は、アカウント名にロシア国旗が表示された“親露派”アカウントによって次々と拡散され、中村氏に「背後から近づいていく」ゲームを推奨して、脅迫行為をあおるようなコメントまで寄せられた。
東野氏の注意を受けてか、現在は写真を含め一連の投稿はすべて削除されている。被害を受けた中村氏はこう語る。
「私はふだん、ネットを見ないので知りませんでしたが、今回の件はSNSに詳しい東野先生に教えてもらいました。障害者手帳を持つ高齢の母や、家族と買い物に来たところですね。私はロシア政府から名指しで“入国禁止令”を受けており、ふだんから身のまわりの安全に気を配っています。しかし、なぜA氏がこんなことまでしてロシアに肩入れするのか、わかりませんね」
東野氏は、A氏が以前から“親露派”の中心的人物として、SNS上で熱心に活動していたと話す。
「陰謀論のようなトンデモ偽情報を拡散していました。たとえば『ロシアのミサイルが、地下100mにあるNATOの拠点を攻撃した』とか『ウクライナは死亡した兵士を使って臓器移植ビジネスをしている』とか。ロシアを利するための情報工作を、自ら買って出ている人物です」
はたして、A氏はいったい何者なのか。本誌は、A氏がロシア人研究者の夫を持つ、茨城県内に住む女性であることをキャッチ。直接“脅迫事件”の真意を尋ねた。
県内の閑静な新興住宅地に住むA氏。チャイムを押すと、紺色のワンピースを着た、ごく普通の中年女性が出てきた。中村氏の件を聞くと、A氏は素直に反省の弁を語り出した。
「たまたま中村教授を見つけたので、出来心で投稿してしまったんです。その後、これは嫌がらせ行為ではないかと気がつき、猛省しました。写真を拡散していた友人たちにも、すぐに削除してもらうように要請しました」
ところが、ウクライナ情勢に話が及ぶと、A氏は徐々にヒートアップした。
「むしろ、私のほうがふだんから嫌がらせを受けているんですよ。夫の職場に抗議の電話がありましたし、父がロシア人である息子は『ロシアに帰れ』と学校でいじめられているんです。私もSNS上で、東野先生のファンから嫌がらせを受けています。彼女たちは、私がネット上で開いている勉強会をわざわざ覗きに来て、誹謗中傷するんです」
では、嫌がらせを受けたから“親露派”になったのか。
「違います。“特別軍事作戦”について、西側メディアはあまりに偏っています。スラブ人同士の問題にNATOが首を突っ込むせいで、犠牲者を生んでいるんです。私はロシアから指示を受けて活動しているわけでもありません」
そしてA氏は、本誌の取材も「嫌がらせである」と主張し、警察署まで本誌記者を連れていった。そして署内でも、6時間以上にわたり、滔々と“自説”を語ったのだった。
「被害者ヅラするのも、行きすぎた親露派の特徴ですね。私はA氏に言及したことなど、ほぼありません」(東野氏)
高橋杉雄氏は、こう語る。
「私も講演会で、いかに西側が間違っているか、延々と語る方に出会ったことがありますよ。SNS上にはロシアの国家的工作員もいるでしょうが、たんなる“米国嫌い”や野次馬など、いろいろな種類の“親露派”がいるのです」
本家同様、親露派の身勝手な“特別軍事作戦”は決して許されない。