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「子供に留守番させたら虐待」おかしな法案が通りかねない地方議会の暴走…問題は埼玉だけじゃない!【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第19回】

社会・政治 投稿日:2023.10.20 06:00FLASH編集部

「子供に留守番させたら虐待」おかしな法案が通りかねない地方議会の暴走…問題は埼玉だけじゃない!【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第19回】

改正案は委員会で賛成多数で可決。「こんなへんな条例が通りそうになる今の政治はどうかしてる。今回はマスコミもみんな反対やね」

 

「(小学3年生以下の)子供に留守番させる」「子供を置いてゴミ捨てに出る」「子供だけで登下校させる」「子供同士で公園で遊ばせる」「未成年の高校生に子供を預けて買い物に出かける」「子供にお使いを頼む」。

 

 これらはすべて「虐待」に当たると聞いたら、冗談やろと思うんと違いますか? ところが、そのように定める虐待禁止条例の改正案を、埼玉の自民党県議団が議会に提出した。もう無茶苦茶や。

 

 

 案の定、県民の反対は強く、自民党県議団は10月10日に改正案を取り下げました。

 

 子供に留守番させたらあかんというなら、親は働きに行かれへんがな。小学3年生くらいになれば、登下校時に親がついて行ったら、逆に恥ずかしがられますわ。子供が公園で遊んでいる間中、親は買い物にも行けず、張りついとかなあかんのかって話。

 

 高校生のお兄ちゃんに、小学校3年生の妹を見てもらうことすらNG。子供を残してゴミを出しに行ってもあかんのなら、誰かが代わりにやってくれるのか。テレビの『はじめてのおつかい』(日本テレビ系)は “虐待推進番組” になってしまうわ。

 

 もうひとつ大きな問題は、県民に通報義務を課していること。子供をお使いに行かせているのを見たら、それは虐待だから通報しなさいと命じているわけ。そうなると、ものすごい監視社会よ。地域の人間関係を壊す気かい!

 

 児童虐待防止が目的なら、そのために何より必要なのは、行政が子供や保護者を支援すること。「子供だけで留守番させるな」やなくて、ヘルパーを派遣するとか、預かり保育をするとか、学童保育を夜7時まで延長するとか、策を講じるのが政治。

 

 改正案は行政が責任を放棄して何もせず、親が24時間、子供を見ろと言っているのと同じで、そもそもの発想がおかしい。共助、公助の考え方ではなく、自助で親にすべてを押しつけるスタンス自体が間違っている。

 

 埼玉県議会の定数は93。47が過半数ですが、自民党だけで58議席もある。自民党の賛成だけで、条例案は可決できる状況。さらに公明党は9議席だから、自公で67と3分の2を超える。

 

 改正案を提出した自民党県議団の田村琢実団長は、テレビカメラに向かって「(案の内容は)全国初です」と胸を張っていた。あんた、ほんまに子育てがわかってる? これが多くの国民の反応よ。田村団長は子育てに興味がなく、体験したこともないんでしょう。与党の人たちは頭でっかちで、親に責任転嫁し、「お前が悪いんや」みたいな発想をするんやね。

 

 問題は、そんな古臭い価値観の人が世の中に一人、二人はおるという話ではなく、その人が埼玉県議会における与党の団長であり、しかも、誰もそれに反旗を翻すことなく、公明党まで賛成していることです。こんなおかしな条例を考え出したこともそうやけど、それがほんまに成立しかねないことに、みんな呆れている。

 

 じつは、そこには地方議会のあり方や、選挙制度の構造的な問題があるんです。埼玉は首都圏で、無党派が多い都市部の一定の票がある。だから、県知事選では野党が通るんです。今の大野元裕知事も、上田清司前知事も野党系でした。市民派、県民派の候補が通る土壌なんです。

 

 ところが、埼玉県議会選挙では、ほとんどの選挙区で自民党候補が当選する。無投票の選挙区も多い。なかには、「なんでこんな人が」というような人まで通ってしまう。だから、県議会は自民党ばかりという状況になり、結果、民意とは無縁の条例ができてしまうんです。

 

 気になるのは、改正案の背景にある家族観に、旧統一教会の思想と共通するものを感じたこと。「親は子供のそばに24時間いてやれ」という古臭い考え方。

 

 実際、藤本正人所沢市長は以前、旧統一教会の関連団体のイベントに出席したことを認め、「反省していません。これからもつき合います」と開き直っていたほどです。

 

 埼玉は、ほかにも旧統一教会との関係を疑われる国会議員や県議会議員が多く、選挙運動で支援を受けるぶん、ノイジー・マイノリティである宗教団体の主張に影響されるんやないか。

 

 こうした議会の暴走は、埼玉だけの問題やない。じつは、明石でも同じ。12年間、議会の多数派と戦ってきた私は、今回の埼玉の改正案が生まれたことについて、どこも一緒やなあと実感します。

 

 多数派がおかしな条例を作ろうとしたときに食い止めるのは、市長の役割です。そのために、地方自治法176条の1項に「再議」というルールがある。

 

 条例が可決された場合、市長や県知事はそのルールに基づき、「一般再議」の手続きを取ることができる。そこで、議会の3分の2以上の賛成がなければ条例は廃案となる。

 

 仮に3分の2以上の賛成で再可決されても、「特別再議」(同4項)で、国の判断を仰ぐことが可能。さらに、裁判所へ提訴して、条例の執行そのものを停止することもできる。

 

 現に、私は市長になった最初の年から、「一般再議」や「特別再議」を駆使し、議会と戦ってきた。改正案の採決に対して、大野元裕知事にできることはいろいろあったはず。

 

 現在、広島県の安芸高田市では、石丸伸二市長が議会と対立していて、そのことをSNSで発信して注目されています。マスコミは市長批判や県知事批判は好きやけど、地方議会については無関心で報道してこなかった。

 

 しかし、石丸市長の発信によって、地方議会の暴走ぶりが全国に知れわたるようになった。

 

 今回の埼玉の改正案といい、安芸高田市の例といい、国民が地方議会の問題点について気づき始めたという点では、いいきっかけになった。しかし、国政に目を向けると子育てしたことがない議員が「異次元の少子化対策」と叫んでいる。埼玉を笑えんよ。

( 週刊FLASH 2023年10月31日号 )

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