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人はどのようにして「貧困」に陥るのか…日本には震災やコロナ禍で生活が根こそぎ破壊される層が膨大に存在

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.02.29 11:00 最終更新日:2024.02.29 11:00

人はどのようにして「貧困」に陥るのか…日本には震災やコロナ禍で生活が根こそぎ破壊される層が膨大に存在

貧困はネットカフェ難民だけではない(写真はAC)

 

 この記事は雨宮処凛氏の新刊『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)を再構成したものです。

 

 

 私は約20年間、貧困の現場に身を置いてきたが、その間、いろいろなことがあった。東日本大震災と原発事故、そして2020年からのコロナ禍。

 

 特にコロナ禍、困窮者支援の現場は「野戦病院」のような様相を呈した。

 

「派遣の仕事を切られて寮を追い出され、行き場がない。所持金はゼロ円」
「もう一週間食べてない」
「昨日ホームレスになった」
「自殺するつもりで荷物を全部捨てたが死に切れなかった」

 

 このような緊急性の高いSOSが連日、支援団体に届き続けたのだ。

 

 

 ここにコロナ禍で駆けつけ支援をしてきた「新型コロナ災害緊急アクション」のデータがあるので紹介しよう。「新型コロナ災害緊急アクション」(以下、緊急アクション)が結成されたのはコロナ禍が始まってすぐの2020年3月。「反貧困ネットワーク」(私はこの団体の世話人)が呼びかけ、貧困問題に取り組む40ほどの団体によって作られた。

 

 2020年4月、東京など7都府県に「緊急事態宣言」が発令される。ライブやイベントが軒並み中止になり、多くの商業施設に休業要請が出されたが、ネットカフェもその対象となっていた。

 

 これを受けて、緊急アクションではすぐにメールフォームを立ち上げ。ネットカフェで寝泊まりしている人々の行き場がなくなることが予想されたからだ。

 

 以降、2024年の今日に至るまで、連日SOSメールが届き続けている。コロナ禍初期はネットカフェ生活者からが中心だったが、「家賃滞納でアパートを追い出されそう」「すでに車上生活となっている」など、さまざまな状況の人からのSOSが4年経った今も続いている。その数、現在に至るまで2000件以上。

 

 内訳を見ると、私が現場に入り始めた約20年前とは様相が変わっていることがよくわかる。

 

 まず、メールをくれる約6割が10~30代。「年越し派遣村」の時は中高年が中心で30代も珍しかったのが、著しく若年化した。女性も増えた。年越し派遣村には505人が訪れたのだが、女性はわずか5人で1%。しかし、コロナ禍ではSOSメールの約2割が女性。女性の割合は20倍となっている。

 

 メールをくれる人々の状況は、思った以上に深刻だ。

 

 まず、7割以上がすでに住まいを失っている状態。「ネットカフェ難民」が新語・流行語大賞にノミネートされた頃は「家がない」人たちがいること自体、衝撃を持って受け止められたわけだが、この20年ほどで「ネットカフェ生活」は不安定層にとって当たり前のものとなった。

 

 2018年に発表された東京都の調査によると、いわゆる「ネットカフェ難民」は都内だけでも1日あたり4000人。現在はもっと増えていることが予想される。

 

 さて、家がないくらいではそこまで焦らない彼ら彼女らも焦るのが、料金滞納による携帯の停止。緊急アクションにメールをくれる約4割が携帯が止まっている状態だ。これでは日雇いの仕事も探せないと本気で焦り、フリーWi-Fiを探して連絡してくるのだ。

 

 その時点で、所持金が尽きている人は多い。約2割の人の所持金が100円以下。

 

 コロナ禍、支援者たちはそのようなSOSメールを受け、駆けつけ支援をしてきた(都内近郊のみ。遠方の場合はその地の支援団体などを紹介する)。なぜ駆けつけ支援かと言うと、電車賃もない人が多いので、その人のいる場に駆けつけるしかないのである。

 

 そうして聞き取りをし、食費もない人には緊急の食費を給付し、住まいがない人は安いホテルに泊まってもらう。原資は一般の方々からの寄付金「緊急ささえあい基金」だ(寄付金は現在も受付中)。

 

 当事者の多くが家も仕事も所持金もない状態。そのような場合に使える制度は生活保護くらいしかないので、後日、生活保護申請に同行という流れだ。

 

 このような形で、コロナ禍、多くの人が公的支援につながった。私も時にSOSをくれた人のもとに駆けつけ、生活保護申請に同行してきた。そうして申請が通れば、アパートに転宅となる(転宅費は生活保護費から出る)。

 

 このようにして、数年間に及ぶネットカフェ生活を終わらせた人が多くいる。中には10年近くネットカフェ生活という若者もいた。コロナ禍がなければおそらく支援団体と出会うこともなく、今もネットカフェ生活だっただろう。

 

 さて、こんな現場に20年近くいて見えてきたのは、この国では、「何か」があれば生活が根こそぎ破壊される層が膨大に存在するということだ。

 

 それを痛感したのは、コロナ禍の相談会で出会った40代くらいの男性の言葉。コロナで失業しホームレス状態となったという彼は、「派遣村の時にもお世話になりました」と口にしたのだ。

 

 詳しく聞くと、当時も失業してホームレス状態になり、その後生活保護を利用するものの、派遣の仕事と生活保護を繰り返す暮らし。そうしてコロナ禍、再び路上に放り出されてしまったのだ。

 

 また、東日本大震災の際、被災地ではないものの客が来なくなり風俗店の寮を追い出される経験をした女性は、コロナ禍でもまったく同じ目に遭っていた。そうして今週中には寮を追い出されると相談に来たのだ。

 

 リーマンショックという経済危機、東日本大震災という大災害、そしてコロナ禍という感染症の拡大。そのたびに、住まいを失い路上に放り出されるなど、生活の土台をあまりにも簡単に失ってしまう人々。

 

「失われた30年」は、このように、個人ではどうにもならない出来事によって人生そのものが破壊されるような層を膨大に生み出してきた。背景にあるのはやはり雇用の不安定化だろう。

 

「反貧困ネットワーク」初代事務局長であり、現在は「特定非営利活動法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長である湯浅誠氏は、このような状況について、「溜(た)め」という言葉を使っていた。

 

 意味するところは、人間関係や貯金、企業の福利厚生、相談できる人や頼れる家族など。そういうものがある状態を「溜めがある」、ない状態を「溜めがない」と言う。そうして貧困は、お金がないだけでなく「溜めがない」状態なのだと。

 

 もうひとつ、湯浅氏が提唱していたのは貧困に至るまでの「5重の排除」という概念だ。

 

・家族福祉からの排除。
・教育課程からの排除。
・企業福祉からの排除。
・公的福祉からの排除。
・そして自分自身からの排除。

 

 困ったときに頼れる実家や就職に有利な学歴、また失業保険や生活保護などの社会保障制度などなどから排除された果てに、人は貧困に陥るのだ。

 

 

 以上、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』を元に再構成しました。社会保障を使いこなすコツや各種困りごとの相談先など、「死なない」ためのサバイバル術がまとめられています。

 

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