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特殊詐欺「ルフィ事件」元「掛け子」受刑者の手記(2)初日に200万円“成約”も「喜びなんて1mmも感じなかった」

社会・政治 投稿日:2024.03.19 06:00FLASH編集部

特殊詐欺「ルフィ事件」元「掛け子」受刑者の手記(2)初日に200万円“成約”も「喜びなんて1mmも感じなかった」

ルフィの部下「モリ」氏が獄中から寄せた手記

 

 フィリピンを拠点に、4人の指示役をトップとする特殊詐欺グループが引き起こした「ルフィ事件」。同グループが関与した詐欺被害は、2018年11月~2020年6月で、60億円を超えるとされる。また、摘発された4人が現地収容所から指示し、2022年から2023年にかけて相次いだ広域強盗は、日本社会を震撼させた。

 

 2019年11月、4人の下で働いていた詐欺電話の「掛け子」36人が拘束され、日本に送還。そのうちのひとりで、有罪判決を受けて現在、服役中の「モリ」氏(仮名・30代)が、本誌へ手記を寄せた。その手記を、5回にわたって掲載する(手記中の名前はすべて仮名)。

 

 第2回は、2019年5月にフィリピンに渡った「モリ」氏が、初めて詐欺に手を染めたときの感情をつづる。

 

 

 ホテルに戻り、すぐにクボからメッセージが来た。「モリさんとハヤシさんは今からCODに向かってください」。CODとは、シティー・オブ・ドリームスという、マニラのパサイ地区にある高級カジノホテルだ。GLUB(グラブ)というフィリピンのアプリを使い、タクシーを呼んだ。GLUBは、アプリ内で出発地と目的地を設定し、金額も乗車する前にわかる。グラブと提携しているドライバーはぼったくることができないし、下車後に客が5段階評価をするので、適当な接客もできない仕組みになっている。「麦わらの一味」は、全員と言っていいほどこのアプリを利用していた。

 

 ホテルを出て20分ほどで到着し、クボへ連絡したら、数分後に全身タトゥーの男が迎えに来た。「モリさんとハヤシさんですか?」。ホテルの入り口でボディーチェックを終え、1泊10万ペソはするというスイートルームに案内された。そこにはボスがいるという。中に入ると、『闇金ウシジマくん』風の男が待っていた。彼こそ「麦わらの一味」のボスである“ルフィ”である。ルフィの上に金主がいるという憶測が、後に報道で流れていたが、そんな奴は少なくともフィリピンにはいなかった。ルフィこそが、この組織の頂点であることは間違いなさそうだ。

 

 ルフィは軽く自己紹介を始めた。もともとは大学に通いながらレストランを経営していたという。イミグレーションを押さえているから、捕まることはないともいう。とにかく、トラブルに巻き込まれないようにすること。がんばれば、1カ月に何千万円も稼げるという。さらに、フィリピンでの立ち振る舞いの仕方も教えてくれた。我々のモチベーションを上げようとして、彼は話し出すと止まらないぐらいだ。このボスは、現地では「ハオ」と呼ばれているようだ。「明日までにこれを覚えておくように」。ルフィはそう言うと、我々にプリントアウトしたものと、録音されたデータを渡した。

 

 同期のハヤシとホテルに戻った。腹がすいたので、近くの「信長」という日本食レストランで食事をした。そのあと、ハヤシがKTVに行きたいというので向かった。ハヤシは地方の出身者で、夜の街はほとんど知らないという。一度KTVに行き、すっかり気に入ったようだ。2時間ほど飲んでホテルに戻った。電話のかけ方が書かれたマニュアルをしっかり頭に入れてこい、と言われたものの、そんな気にはなれない。部屋に戻るとすぐに寝てしまった。

 

 翌朝、クボに指定された場所にタクシーで向かった。どうやら学校のような建物だ。なかにはネズミやゴキブリが走り回っている。部屋の中からは日本語の会話が聞こえてきた。クボが言う。「モリさんとハヤシさんは、今日からここで仕事をしてもらいます」。部屋の奥から全身タトゥーの若い男が現れ、説明を受けた。「管理のヒライです。よろしくお願いします。今日は雰囲気や、全体の流れをつかんでもらう感じでいいです」。縦10m、横5mほどの部屋には机が並び、パソコンが置かれている。そこに、電話番号が書かれた名簿やマニュアルが置いてある。ここがコールセンターなのだとわかった。

 

 アポ電を担当する掛け子はすでに12、13人ほどがいた。うわぁ、なんか来るところまで来ちまったなあ。そんな感覚に陥った。ヒライがもう一度、マニュアルを確認した。「とりあえず、ハヤシとモリはこのマニュアル通りに電話をしてみて。まずハヤシから。はい、次、モリ」。とりあえずマニュアルを読み上げると、こう言った。「まあ問題ないね。あとはひたすら電話をかけまくってくれ。慣れるしかないからね」。電話には上手、下手があるらしいが、根性論だ。とにかくかけまくって場数を踏んでくれという。部屋のなかは、ほかの掛け子たちの電話の声がひっきりなしに響いていた。

 

 ここまで来たら、あとは電話をかけるしかない。あきらめにも似た気持ちになって、電話をかけた。ところがどうだ。いきなり、初日に“成約”を1件取ってしまった。何歳かはわからないが、おばちゃんだ。詳しくは言えないが、200万円近い金額を振り込ませることができた。この日の夜、ホテルでひとりになったとき、恐ろしさに襲われた。成約を取ったおばちゃんが最後に言った、「ご苦労様です。ありがとう」という誠実な言葉が頭から離れないのだ。成約を取ったといううれしさや喜びなんて1mmも感じなかった。

 

“箱”での業務は、7時40分から16時40分まで。これが平日のスケジュールで、土日は休み。特殊な事情を抱えている奴を除き、連休中の帰国を許されている奴もいた。特殊な事情とは、日本で逮捕状が出ている奴や、だまされてフィリピンに連れてこられ、帰国したらバックレそうな奴らだ。そもそも俺がフィリピンでパクられたのも、掛け子のひとりが、帰国した際に成田空港で逮捕され、そいつが俺らのアジトの場所をチンコロ(密告)したからだった。その人物は2019年11月に逮捕され、その数日後の11月13日に、俺らはフィリピンの入管に拘束された。フィリピンでパクられるなど思ってもみなかったことだった。

 

 ちなみに、フィリピンには「セットアップ」というシステムがあって、現地の警察とマフィア、ギャングが手を組み、アジトに警察が踏み込むと見せかけ、金を脅し取ってくる。フィリピンの警察の汚職っぷりは、日本では考えられない。驚くほど賄賂が横行しているのだ。我々も事前に、警察には賄賂を払うよう言われていて、払っていた。警察だけではない。判決だって金次第で変えられるし、刑務所や入管のなかでも、金さえ払えばなんでも手に入る。まさにカルチャーショックだ。いままでの固定観念など吹っ飛んだ。何が正しいのかさえ分からなくなってきた。

( SmartFLASH )

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