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特殊詐欺「ルフィ事件」元「掛け子」受刑者の手記(3)週に300万円稼ぎ「詐欺」の感覚マヒ、そして逮捕へ

社会・政治 投稿日:2024.03.20 06:00FLASH編集部

特殊詐欺「ルフィ事件」元「掛け子」受刑者の手記(3)週に300万円稼ぎ「詐欺」の感覚マヒ、そして逮捕へ

ルフィの部下「モリ」氏が獄中から寄せた手記

 

 フィリピンを拠点に、4人の指示役をトップとする特殊詐欺グループが引き起こした「ルフィ事件」。同グループが関与した詐欺被害は、2018年11月~2020年6月で、60億円を超えるとされる。また、摘発された4人が現地収容所から指示し、2022年から2023年にかけて相次いだ広域強盗は、日本社会を震撼させた。

 

 2019年11月、4人の下で働いていた詐欺電話の「掛け子」36人が拘束され、日本に送還。そのうちのひとりで、有罪判決を受けて現在、服役中の「モリ」氏(仮名・30代)が、本誌へ手記を寄せた。その手記を、5回にわたって掲載する(手記中の名前はすべて仮名)。

 

 第3回は、2019年5月にフィリピンで詐欺を始めた「モリ」氏が、6カ月後に逮捕されるまでをつづる。

 

 

 掛け子初日に1件の成約を取った俺に対し、クボが俺らを誘って日本食高級レストランに連れて行ってくれた。「初案件祝」ということらしい。同じ箱の2人のアポ(掛け子)も含め、4人でレストランに行くと、そこでは、詐欺をやっていて被害者への罪悪感があるかという話になった。アポのひとりはこう言った。「最初は多少あったよ。でも、毎日、アポ電をやってると感覚がマヒしてしまうんだよね。いまは罪悪感なんていう感情はまったくなくなった」。もうひとりのアポはもっとひどい。「最初から罪悪感なんてないよ。むしろこの仕事がめちゃくちゃ楽しいと思ってる」。

 

 もちろん、それなりの報酬があるから、やっていてだんだん楽しくなり、感覚がマヒするのだろう。我々の報酬は、成約した案件の金額の5%。今回の俺の案件は200万円だったから、1線(末端の掛け子)の俺の報酬は10万円になった。クボは、「1000万円を目指してみれば」と俺にアドバイスをする。1000万円を達成すると、50万円のボーナスがつき、さらに1000万円以降の案件は、報酬が10%になる。報酬をアップさせ、さらにやる気を起こさせるのだ。

 

 食事の後、またKTVへ行った。3日連続だ。こういうところで女の子と飲んで、憂さを晴らしたいのかもしれない。

 

 次の日の朝、前日の案件の「板(キャッシュカード)」がまだ(取引が)止まっていなかったので、さらに200万円を引き出した。それがまた成功案件になった。この日はほかに、300万円の案件も成約させた。わずか2日で700万円だ。ここの箱だと、1カ月以内に2件成功させないとペナルティ、というルールがある。でも、俺はわずか2日で2件、成功させたので、3日めからは『1線2線』が強制になってしまった。1線2線とは、掛け子とその上役をひとりでやるものだ。報酬も10%にアップした。だが、それから1週間は案件が取れずにいた。だいたい多く案件を取るやつで月に7、8件。月に1、2件というアポもざらだ。まったく案件を取れないアポも何人かいた。それでも1週間に2万円ぐらいは全員に生活費が支給されるので、フィリピンではとりあえず生活には困らない。ただ、遊んだりできる額ではない。

 

「麦わらの一味」のメンバーは、仕事以外の時間は、カジノに行ったり、女のところに行くか、薬物、このどれかにはまっている。月に200~300万円稼ぐやつがいる一方で、借金にまみれているやつもけっこういた。だが、俺はそのどれも無縁だった。仕事の後に、ちょっと居酒屋風な店へ飲みに行く程度。あとは麻雀をするぐらいだった。

 

 初めての仕事から、翌週には1線、2線とも成功させていたので、報酬額は100万円を超えていた。感覚もマヒしてきて、罪悪感などなくなっている。泥沼に体の半分ぐらい浸かっている自分に、このときはまったく気づいていなかった。金に目がくらみ、まわりのことがまったく見えず、自己中心的な自分になっていたのだと思う。この環境で良心を保つのは至極、難しいと思う。案件を取ることで称賛され、組織内での地位が上がり、金が手に入る。俺はこの週だけで300万円を超える金を手にした。かたや同期のハヤシは15万円程度、ブラックとはいえ、誰でも稼げるわけではないようだ。

 

 箱に10人いたとしたら、管理の人間以外のアポは、月に200万円以上が2、3人、100万円以上が2、3人、50万円以上が2、3人、30万円以下が1、2人といったところ。自分がいた箱のだいたいの相場だ。

 

 当初12、13人だった掛け子は、2カ月ほどで40人ぐらいに達した。売り上げは、月に2億円にも上っていた。売り上げとはすなわち被害額だ。俺は管理に昇格し、1年で1億円貯めるという目標も、このペースだと達成できるかもと思ってきた。もうこのころには詐欺に手を染めていること、この業界に足を踏み入れていることになんの躊躇もなくなっていた。自分の気持ちひとつで、環境で、人はどうにでも変わってしまうのだということを、自他ともに目の当たりにしてきた。いま思うと、俺はパクられて、いま刑務所に入ることができて本当によかったと思う。俺と一緒にパクられたのは36人だったが、その場にいた40人以上の仲間はパクられず、そのうちの大半は、いまだフィリピンで活動を続けているはずだ。

 

 うまく金を稼ぐやつもいれば、へまをやらかし、また裏切りが発覚し粛清されるやつもいる。アオシマもそのひとりだった。彼は日本で闇金でしのいでいたが、シャブで捕まり、刑務所から出所後「麦わらの一味」に入ってきた。わりと成績がよく、3線までとんとん拍子で上がっていたが、クセの強い人間で、オラオラ気質。しかも年配でもあるので、若いやつらは彼にだいぶ気を遣っていた。

 

 ヒガシノというアオシマの同期が、しばらくは仲よくしていた。でも、途中で嫌気がさしていた。このヒガシノは、オーナーのキタミに気に入られ、毎日のように呼び出されてプライベートもともにしていた。

 

 このころ、アオシマは、箱の人間を引き抜いて、自分で箱を立ち上げようと画策していた。ヒガシノはこれに乗るふりをして、キタミにチンコロ(密告)したのだ。これに激怒したキタミは、アオシマを抹消することにした。詳細は書けないが、アオシマは目と耳がなくなり、生きたまま豚に喰われてしまった。表沙汰になっていないだけで、粛清されてもおかしくない行動を取っていたやつらはたくさんいる。

 

 あのルフィたちと同じようなことを個人でやっていた奴も、36人のなかにいた。それに無理やり協力させられているやつ、協力を拒んでいじめられるやつもいた。この業界のいじめはひどいものだ。リーダー的なやつらも、所詮は犯罪者。人格者なんて皆無だから、とがめる奴もいない。ボコボコにされ、怪我をしても病院にも行けないし、警察にも行けない。自殺しても組織内で処理される。家族に知られることは2度とないだろう。だが、ついにそんな組織に警察の手が及んできた。

 

「Hands up !」。2019年11月13日、組織で買い取ったホテルで稼働中、突然、銃を持った男女が5、6人、中に入ってきた。最初は、500万円ぐらい渡せばなんとかなると思った。だが、その後ろからフィリピンのテレビカメラと記者まで入ってきた。うわ、これはガチなやつだ。この瞬間、終わったと思った。

 

 銃を向けられ、壁側を向けさせられ、手を頭の後ろで組んで座らされた。NBIとイミグレーションの連中らしい。NBIとはFBIのフィリピン版だ。その割には、フロアにある俺らのタバコを勝手に吸い始め、冷蔵庫の中のジュースを飲んだり、俺らのバッグや財布をあさっている。これが正式な押収なら後で返ってくるだろうが、あくまで私的な略奪である。俺はこのとき、80万円ぐらい取られた。彼らの日当は1800円程度だから、大金に違いない。これを全員で分け合うらしい。

 

 しばらくすると、日本大使館の男が来た。日本の警視庁に依頼されたこと、これは特殊詐欺の捜査ユニットであること、同じホテルに掛け子は100人弱いたが、まずは俺を含めた36人を拘束したことを告げられた。バスに36人しか乗れなかったらしい。もともと逮捕状が出ているやつ、パスポートを提示できなかったやつなどが選ばれたらしい。女や結婚しているやつは省かれた。イミグレーションの本部までバスで行き、オレンジのTシャツを着せられ、写真を撮られた。すでに日本のマスコミも来ていた。

 

 1時間半ぐらいかけて、入管の収容施設に移送させられる。ビクータンという場所らしい。じつは、娑婆よりもこの収容所の生活のほうが、カルチャーショックは大きかった。外側から中の様子をうかがうと、収容者はほとんどが上半身裸。床に寝ている奴らしか見えない。しばらくして、俺たち36人は中に入れられた。先に入所していた、全身刺青の大柄な日本人が話しかけてきた。「ニュースに出てたぞ。とりあえずタバコでも吸えや」。タバコをくれたその男は別件で捕まった暴力団関係者で、後々36人は彼に振り回されることになる。クソ男だ。こいつは腹にでかいダルマの刺青があったので、陰でダルマと呼ばれていた。

 

 収容所に入れられたものの、この日は寝る場所すらなかった。俺は幸いにも韓国人の部屋のベッドを使わせてもらった。だが、ほとんどのやつらは、コンクリートの床や階段に座って寝ることになった。

( SmartFLASH )

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