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“ゲームおたく”20代成年がパイロット…女性ジャーナリストが見たウクライナ「ドローン戦争」最前線

社会・政治 投稿日:2024.05.10 12:00FLASH編集部

“ゲームおたく”20代成年がパイロット…女性ジャーナリストが見たウクライナ「ドローン戦争」最前線

谷川さんは1987年生まれ。北コーカサス史の研究者でもある

 

 ロシアによる攻撃が続くウクライナ。ジャーナリストの谷川ひとみさんは、2011年から“ウクライナ戦争の原型”といわれる、チェチェン紛争の義勇兵の取材を続けてきた。

 

 そして2024年4月、谷川さんはウクライナのドネツク州に展開する「第411領土防衛隊」に従軍取材した。谷川さんによる現地取材ルポをお届けする。

 

 地平線の向こうから、砲撃音は絶え間なく続いていた。

 

 

「わからない。ここは、なんでも起きる」

 

 着弾点までの距離を尋ねる私に、兵士はそっけなく返した。数日前にキーウで会った、帰還兵の言葉が頭をよぎる。

 

「こちらの砲弾は尽き、ロシア軍は我々の10倍の砲弾を持っていた。どうすればいいかさえわからなかった――」

 

 2024年4月3日から3日間、私は戦場カメラマンの横田徹さんと、ウクライナのドネツク州スラビャンスク近くに基地を持つ「第411領土防衛隊」の夜間作戦に従軍取材した。

 

 スラビャンスクから直線距離で30kmしか離れていないチャソフヤールの制圧をめぐり、ロシア軍が攻勢を強めているさなかだった。

 

「赤いライトを使え」

 

 部隊の出発前、撮影のために照明を使ってもいいかと聞くと、部隊長がそう命じた。通常のライトだと、敵から発見されやすいためだ。部隊長は、聞くとまだ25歳。あどけなさが残る、小柄な青年だ。

 

 彼はドネツク州の出身で、2014年のドンバス戦争で州が占領されたとき、キーウへと逃れたという。部隊長は、私の目を見てこう言ってくれた。

 

「日本は、たくさんウクライナを助けてくれている。取材には、喜んで協力します」

 

 2人の兵士とともに向かった作戦拠点は、基地から車で1時間ほどの、真っ暗な林の中だった。照明なしでは、撮影どころか足元さえ見えない。

 

 作戦で使用するのは、ウクライナ製の組み立て式のドローンだった。素手でも壊せそうなほど軽く、薄い。40代の元歩兵だという気さくな雰囲気の兵士が説明した。

 

「無駄な電波を出すと、敵に見つかるリスクが高まる。使うのは、この1機だけだ」

 

 これに、1980年代に製造された爆弾を2つ取りつけて、ひと晩で3度飛ばすという。

 

 ドローンの組み立てが終わると、草むらのなかを歩いて開けた場所に進んだ。私の腰丈まである草をかき分けて進む。地雷があるかもしれない。兵士たちが通った道から外れないよう、必死で後を追った。

 

 スイッチを入れ、プロペラが回ると放り投げた。ドローンは、驚くほど簡単に飛んでいった。操作は事前にプログラミングされており、軌道に乗ったことを確認すると、戻ってくるのを待つだけだ。

 

 部隊長と同じ25歳だというもうひとりの兵士は、組み立ての作業中はエラーを起こすモーターに悪態をついたりしていたが、ようやく会話に加わってくれた。

 

「もともとは地雷を撒く任務に就いていたけど、ドローンのほうが効果的に戦えると思ったんだ。ロシア人を殺すことに、ためらいはない」

 

 約1時間後、バサバサッ! と音がすると、彼が駆け出していく。パラシュートにぶら下がって、ドローンが戻ってきたのだ。草むらに落ちたドローンからSDカードを回収し、2人はPCで作戦の成否をチェックする。爆弾を投下した瞬間のみ、カメラが起動するのだ。

 

「クソッ! 木に当たってる」

 

 目標であるロシア軍の武器庫を直接爆撃することはできなかったようだが、それでも引火させ、一部を破壊できたようだ。「まぁまぁだ」。年長の兵士がそう言った。

 

 戻った基地では、作戦会議を取材することができた。部隊長が物静かに語る。

 

「いつも、ロシアのドローンより高く飛ばさなくちゃいけないって思って失敗している。今度、思い切って低いところを飛んでみよう」

 

 会議には5人ほどが参加し、なかには元経済学者だという年長の兵士もいた。だがみな、最年少の部隊長の意見にうなずいていた。

 

 3日間基地に滞在し、“ゲームおたく”だという20代の兵士と仲よくなった。ハーブティーをいれて、ビスケットを分けてくれた。

 

「ドローンパイロットになったのは、ゲームが好きだから。いまでも、ニンテンドースイッチをよくやっているよ。食うほうが、セックスよりストレス発散になる。食うことで、怖さをどうにかするんだ」

 

 談笑していると、“ゴーッ!”という空気を破る音がした。ロシア軍のミサイルが、上空を通過したのかもしれない。2人ともしばらく押し黙り、同時に息を吐いた。

 

「ウクライナの戦況がよかったことなど一度もない。どんな状況でも、自分は最後まで志願して戦うよ」

 

 当初はほかの軍人とは異なる印象を受けたが、そんな彼も力強く言い切った。

 

 従軍取材から約1カ月がたった。4月下旬、アメリカがウクライナ支援再開を決めた。だが、武器が前戦に届くには、まだ時間がかかるだろう。

 

 5月2日、AP通信はチャソフヤールが壊滅的被害を受けたと報じた。スラビャンスクを守る防衛線が崩れたいま、私はあの部隊長や、ゲーム好きの兵士たちの無事を祈っている。

 

(取材/文/写真・谷川ひとみ)

( 週刊FLASH 2024年5月21日号 )

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