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「お辞儀ハンコ」に順応して年収1400万円銀行員も…「JTCおじさん」で上等!Z世代から馬鹿にされても会社にしがみつけ

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.09.29 06:00 最終更新日:2024.09.29 06:00

「お辞儀ハンコ」に順応して年収1400万円銀行員も…「JTCおじさん」で上等!Z世代から馬鹿にされても会社にしがみつけ

JTCのルールである「お辞儀ハンコ」。左に傾け、上役にお辞儀をしているように押す(写真・PIXTA)

 

大企業JTC総務マン》

 

《JTC→スタートアップ》

 

《大手JTC製造業営業/ 激務で心身ともにボロボロ》

 

 最近、Xのプロフィルで目につくアルファベット3文字。共通するのは、学歴や転居歴(おもに都心部)、資産額などを「→」や「/(スラッシュ)」で区切りながら、プロフの文字数制限いっぱいまで“情報公開”していること。そんな彼らがどこか自嘲気味に名乗る「JTC」とはなんなのか?

 

 

「ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー、つまり日本(J)の伝統的(T)な会社(C)のことですよ」

 

 と教えてくれたのは、自らもJTCに勤める松田軽太さん(ハンドルネーム)。歴史あるメーカーで、情報システム部に所属している。

 

「JTCという言葉は3、4年前くらいから使われるようになりましたかね。もともとはXの情シス界隈で流布していたネットスラングだと思います。何十年も前からある、日本を代表する会社ですね」

 

 であれば、入社倍率も給料も高いだろう。なぜX民は自分を卑下するのか。

 

「JTCの多くは事業モデルが固まっていて、確実に利益ができる事業を継続してやっているわけです。その結果、古い考えのまま仕事をしている“JTCおじさん”を多数生み出してしまいました。Z世代からすれば、彼らが古臭く見えるんでしょうね」

 

 松田さんは、2024年5月からXで『JTCオジサン図鑑』と題した一コマ漫画をアップするようになった。「メールを送ったら電話しろ」と要求したり、エクセルの集計結果を電卓で検算させたりする上司がコミカルに描かれている。なかには10万の「いいね」がついた投稿もあるという。

 

「NTTやNECの人から『うちの会社に、まんまこのおじさんそっくりな人いる』と言われたことがありました。対立する部長同士の会議の際には、まず部下同士で会議をするための打ち合わせがあるというんです」

 

 漫画をアップするとJTCおじさんを小馬鹿にするコメントがつくことも多いが、松田さん自身は彼らを否定する意図はまったくないという。

 

「“文化のギャップ”みたいなものを表現したかったんです。自分は情シスですから、Zoomの画面共有のやり方を何度教えても覚えないおじさんにだって、“生暖かい目”で対応していますよ(笑)。それにJTCおじさんは、年功序列の組織に長年いたおかげで、出世している割合が高いと思うんです」

 

 一方、現役メガバンク行員で『雑用は上司の隣でやりなさい』(ダイヤモンド社)著者のたこすさん(ハンドルネーム)は、30代にして調査役という課長級のポストにつき、年収はなんと1400万円だという。出世街道の最短ルートを歩んでこられたのは、上意下達の企業風土に率先して染まってきたからだ。

 

銀行は典型的なJTCですから、僕も入行当初は“謎文化”に反発を感じました。なかでも違和感を持ったのが、『お辞儀ハンコ』です。最初の研修で印鑑の正しい向きを教え込まれました。銀行の決裁書は右から左に向かってだんだん偉くなっていきます。印影が真っ直ぐになるように押すのでなく、少し左に傾けて、上役にお辞儀をしているように押すんです」

 

 たこすさんは、しょうもないルールに呆れながらも、会社への「順応性」をアピールできるチャンスだと捉えた。

 

「どうせハンコは押すんですから、労力は変わらないじゃないですか。今は部下がルールに従わなかったからといって、面と向かって注意する上司は減っていると思います。パワハラとみなされるリスクがあるからです。その代わり、自分が知らないうちに評価を下げられる『サイレント減点』が増えているように感じます。JTCでは、減点リスクをいかに減らすかが重要だと思います」

 

 だが、たこすさんのようにうまく立ち回ることができず、減点リスクを恐れて硬直化したJTCのなかで自分を縛ってしまうケースもある。

 

《上司に相談したところでどうせ『何とかしろ。』などと言われる雰囲気があり、技術部長に相談したとしても無駄であると半ば諦めていた》

 

 上記は、2023年に発覚したトヨタ自動車のルーツ・豊田自動織機の品質不正問題の報告書の一部だ。不正を認識していた担当室長は、上司に報告しなかった理由をこのように答えている。

 

 今年6月には、トヨタ自動車でも同様の不正が発覚。グループ総帥の豊田章男会長が会見で「ブルータス、お前もか」と発言をしたことは記憶に新しい。精神科医の和田秀樹氏はこう批判する。

 

「2024年3月期にトヨタは最高益ですが、円安で儲けただけです。昔のトヨタは、トップが世襲する代わりに、従業員を大切にしたものです。トップがこんな当事者意識に欠けることを言うようじゃ、会社に尽くすのが痛々しいですよ」

 

 事なかれ主義で物を言えず、いざとなれば責任を負わされるJTCの負の側面だ。

 

「JTCに長く在籍していると、企業文化に染まって『かくあるべし』という思考にとらわれてしまいがちです。今の50代は、入社した途端にバブルが弾け、サービス残業で会社に尽くしてきたのにポストはなく、望まぬ配置転換をさせられてきた人も多いはずです。それなのに、たとえば『トヨタマンはかくあるべし』と会社に尽くす必要なんてないと思いますけどね」

 

 和田氏がJTCおじさんにすすめるのが、出世をあきらめて社内で「存在感を消すこと」だ。

 

「会社ではベテランなので、そつなく仕事をこなせるでしょう。若手社員のサポートなどは40代にまかせ、定時になったらさっさと退社しましょう。『あの人は働かない』と言われようが、気にする必要はありません。あなたは不況に喘ぐ会社を支え、もう十分に貢献してきたのです」

 

 大手重機メーカーに勤務経験のある経営コンサルタントの新井健一氏は、これからの時代は、「普通の会社員がいちばん強い」と語る。

 

「これからAIやロボットと共栄していく時代になると、『作業ができる』という能力はサラリーマンにとって、優位性にはなりません。ただ今のAIは、妊娠してしまった女子高校生に家族の前でマタニティグッズをおすすめしてしまうような誤りを犯します。AIにはできない目配りや気配りが、職場でこれまで以上の価値を持つはずです」

 

 AI時代でも、JTCおじさんが当然持っている「社会人としての基礎」を身につけていることが重要だ。

 

「政府はリスキリングで50代を『DX人材』に育成しようとしていますが、ひと握りの技術者以外はその必要はありません。Windowsがアップデートされたときに業務で使えれば、サラリーマンとして大いに活躍できる時代になるはずです」

 

 前出のたこすさんが語る。

 

「JTCでは、企業の文化に合わない人は淘汰され、辞めていきます。若いころは“謎ルール”に抵抗感を抱き、揉まれながらも最終的に生き残ってきた人たちが『JTCおじさん』ですよね。そう考えると、僕は彼らに非常にポジティブなイメージがあります。僕が執行役員に出世しても『お辞儀ハンコ』は残すと思いますし、『JTCおじさん』と呼ばれても上等だと思いますね」

 

写真・保坂駱駝、越野 遥、共同通信

( 週刊FLASH 2024年10月8日号 )

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