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「懲役30年以下が妥当」“紀州のドン・ファン”元妻への無期懲役求刑に若狭弁護士が疑問…検察を翻弄する被告の供述手法とは

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.11.20 20:10 最終更新日:2024.11.20 20:10

「懲役30年以下が妥当」“紀州のドン・ファン”元妻への無期懲役求刑に若狭弁護士が疑問…検察を翻弄する被告の供述手法とは

元衆議院議員で弁護士の若狹勝氏

 

 11月18日、“紀州のドンファン”事件で殺人罪に問われた元妻・須藤早貴被告の裁判員裁判が和歌山地裁で開かれた。

 

「2018年5月、好色で有名な中世ヨーロッパの伝説的貴族にちなみ“紀州のドンファン”と呼ばれた野崎幸助さんが自宅の2階で亡くなっているのが発見されました。

 

 会社経営者であった野崎さんは、終戦後に焼夷弾の弾殻売りから身を立て、金融業、不動産業などで財を成しました。長者番付の常連で、総資産額は約50億円。自著によると、築いた富を惜しげもなく女道楽に使い、4000人の女性に30億円を貢いだとのことです」(週刊誌記者)

 

 

 野崎氏の遺体からは致死量の覚醒剤が検出されており、須藤被告が覚醒剤を摂取させて殺害した容疑がかけられている。地裁では、検察側は須藤被告に無期懲役を求刑。弁護側は改めて無罪を主張した。

 

「この日の論告で、検察側は『野崎さんに覚醒剤を摂取させることができたのは須藤被告以外に考えられない』『野崎さんが誤って覚醒剤を飲んだり、覚醒剤を使って自殺したりすることも考えられない』などと主張。弁護側は、『証拠がいくつか出てきただけで、犯人で間違いないという立証はされていない』と反論しています」(司法担当記者)

 

 日本中が注目する事件での無期懲役求刑について、Xでは様々な声が上がる。

 

《紀州のドンファン事件、状況証拠だけで無期懲役を求刑する検察はやっぱりおかしいわ》

 

《ドンファン殺しの容疑者に無期懲役を求める検察の怒り》

 

 須藤被告への求刑は妥当なのか。元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、「検察はかなり強気」と印象を語る。

 

「通常、夫婦間の殺人事件で無期懲役になることは、あまりありません。また、親族間ではない1人の他人に対する単純な殺人罪で無期懲役になることもあまりありません。無期懲役になることが多いのは、強盗殺人罪の場合です。

 

 今回の事件は、強盗殺人罪ではなく、単純な殺人罪での起訴。検察は、『相続財産目的の殺人』として、被告が長年にわたって犯罪を計画していたというストーリーで裁判をしていますが、目撃者がいないだけに状況証拠しかないんです」(以下「」内は若狭氏)

 

 若狹弁護士によると、状況証拠だけで「相続財産目的の殺害だった」と立証できるかどうかが、今後のポイントだという。

 

「若い女性が金目当てで年の離れた男性と結婚する例は珍しくありません。確かに、須藤被告人は薬物の売人に接触して覚醒剤を入手したこと、ネットで『覚醒剤 過剰摂取』などと検索したこと、結婚が金目当てであったことなどを認めています。ですが、それは単純な殺人には結び付いたとしても、それ以上に相続財産目的の殺害に結びつけるには飛躍があります。無期懲役にできる『相続財産目的の殺害』と明確に認めるまでにはかなりのギャップがあります」

 

 あくまで須藤被告が覚醒剤の入手を認めたとしても、それだけでは決定打にはならない。むしろ彼女が自分にとって不利な供述を始めたことが、検察の立証を弱める可能性があるという。

 

「須藤被告人が野崎さんに頼まれて覚醒剤を入手したと供述したため、検察が描く有罪への戦略が弱められた可能性があります。この供述によって、検察はむしろ『具体的な殺害方法』をより説明しなければならなくなったからです。

 

 被告人が、逆にもし『覚醒剤なんか一切、入手していない』とその点を全面否定したとします。その場合、覚醒剤の売人の証言があれば、被告人が覚醒剤を入手したことを証明でき、さらに、被告人がそのことを否定すれば、被告人の供述は全て『嘘をついている』として、『殺害していない』との供述も嘘であると強く主張する戦術を描くことができました。一般的に、被告人が自分にとって不利なことを一部認めるほうが無罪の可能性が出てくることはままあります」

 

 須藤被告人がそうした検察の戦術の“弱味”を承知で供述しているのだとしたら、そのしたたかさに舌を巻かざるをえない。検察は思惑通り、無期懲役を勝ち取れるのだろうか。

 

「相続財産目的で殺害したと認定するのは簡単ではありませんが、情状的には財産目的の可能性も捨てきれません。夫婦間も含め一般的な殺人事件は、だいたい懲役20年。悪質だと24~25年の懲役刑が科されますが、今回は、検察が無期懲役を求刑していることに鑑みれば、その通りの判決が出る可能性もなくはないでしょう。ただ、私は有期刑の懲役になる可能性のほうが高いと思います。懲役30年以下が妥当だと考えています」

 

 判決は12月12日に言い渡される。

( SmartFLASH )

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