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南海トラフ巨大地震 発生確率「80%程度」に引き上げも「過大な数字です」名大教授が明かす“本当の危険”
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2025.01.18 17:53 最終更新日:2025.01.18 19:01
阪神淡路大震災からちょうど30年を迎える直前の、1月13日の夜、日本列島に緊張が走った。この日、日向灘を震源とするM6.9の地震が起き、宮崎県で震度5弱の揺れを観測したのだ。
「宮崎県と高知県では、最大20cmの津波を観測しました。幸い、大きな人的被害はありませんでしたが、建物が損傷するなどの被害が起きました。とくに注目が集まったのは、今回の地震が南海トラフ巨大地震の震源域であり、同地震の“前兆”である可能性があったからです」(社会部記者)
南海トラフ巨大地震とは、100~150年に1回の間隔で発生している巨大な地震だ。
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「フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界にある南海トラフ沿いを震源域とするもので、具体的には南は宮崎県の日向灘、北は静岡県の駿河湾まで、広域な範囲で起こりうるものです。国は、最大震度7の激しい揺れ、太平洋沿岸は10mを超える大津波に襲われ、死者は最大で32万人以上、経済被害は220兆円以上にのぼると想定しています。
今回は、まさに日向灘で発生した地震だったため、気象庁より『南海トラフ地震臨時情報』が発表されました。南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合や、地震発生の可能性が相対的に高まっていると評価された場合に発表されるものです。また、これまで南海トラフ巨大地震が30年以内に発生する確率は、70~80%と発表されてきましたが、1月15日にはこれを引き上げ『80%程度』と発表されました」(同前)
30年以内に80%――。いよいよ日本列島にカタストロフィが近づいているのかと思いきや、「この数字は過大ですよ」と語るのは、名古屋大学減災連携研究センターの鷺谷威(さぎや・たけし)教授だ。
「そもそも、国は南海トラフ地震を予測するうえで、過去の地震の発生履歴に基づいた『大きい地震が起きた後、次の地震までにやや時間がかかる一方、比較的小さい地震は次の地震まで短くなる』という考え方の『時間予測モデル』を採用しています。
具体的には、1707年の宝永地震、1854年の安政南海地震、1944年と1946年の昭和南海地震という3つの地震を参照しています。その結果、70~80%という数字が導き出されたのです。今回、『80%程度』と確率を引き上げたのは、単純に昨年から1年、時間が経っているので、時間の経過とともに確率が上がっているから、という理由でしょう」
ところが、この「時間予測モデル」はかなり“特殊”なものだ。
「このモデルは、南海トラフの予測にだけ使われているんですよ。ほかにこのモデルを使える地震はありません。ほかの地震では、『単純平均モデル』が使われます。これは地震の規模ではなく、過去に繰り返し起きた地震の間隔の平均を取るのです。たとえば、南海トラフでいえば、地震が起きた1944年と1854年の間は90年で、その前の1854年と1707年の間は147年。その2回のデータがあるので、その平均を取るとだいたい120年ぐらいになりますよね。120年に1度発生するという前提で計算すると、現在ではだいたい30年以内に50%程度、という確率になるのではないでしょうか。いずれにせよ、80%よりも低い数字です」(鷺谷教授)
つまり、南海トラフ巨大地震だけが特別扱いされ、発生確率という数字に下駄を履かされている、というわけだ。
「地震や津波で影響を受ける方に危機感を持ってもらう、という意味では、高い確率を出すほうがいいのかもしれないです。そして、南海トラフという危険が叫ばれていればいるほど、国や地方自治体にとっては防災予算を確保しやすいという事情もあるでしょう」(鷺谷教授)
だが、こうした考え方は大きな副作用をもたらす。たとえば2024年1月に発生し、いまだに復興もままならない能登半島地震だ。
「能登半島で被災された方のなかには、これほど大きな被害に遭うと考えていなかった人もいると思います。つまり、政府や行政があまりに『南海トラフ』を特別扱いするせいで、『次の大きな地震は南海トラフだろう』『南海トラフから離れていれば安全だろう』と考えてしまう人が出てくる可能性があるわけです。これはけっしていいことではありません。残念ながら、どんな地震も“いつどこで起きるかわからない”という前提で考える必要があるのです」(鷺谷教授)
もちろん、鷺谷教授は南海トラフ巨大地震を“過小評価”しているわけでは決してない。
「南海トラフ巨大地震については、『発生確率が高い』というポイントではなく、発生した場合にかなり広い範囲が影響を受ける、という点に注目すべきだと思います。そのうえで、しっかりと防災体制を整えることが大切です。そしてもちろん、日本各地で大規模な地震がいつでも起こりうることも、忘れてはいけません」
地震大国・日本。“誇張された危機”だけに目を奪われてはいけないはずだ。
( SmartFLASH )