社会・政治
立憲・野田代表「食品消費税ゼロ」変節の真意は?…参院選後の自公立 “増税大連立” で首相に返り咲く “ウルトラC” 作戦

4月24日、衆院本会議に出席した野田佳彦代表(写真・長谷川新)
7月の参院選に向け、永田町が動き始めた。注目を集めたのが、4月25日、立憲民主党の野田佳彦代表が打ち出した「1年限定の食料品消費税ゼロ」方針だ。
かつて民主党政権の首相として消費税増税を実現させ、「ミスター消費税」とも呼ばれた野田氏。この新方針の背景には、党内の激しい路線対立があった。
「昨年の衆院選で、国民民主党とれいわ新選組が議席を大きく伸ばしたのは、減税を主張してきたからです。当然、次の参院選でも同様の流れが予測されます。
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立憲内でも、物価高が収まらず、有権者の『減税待望論』が高まるなか、江田憲司氏が減税をテーマにした勉強会を立ち上げ、70人を超える議員が参加しました。
その一方で、党の創設者である枝野幸男元代表は、この流れに反発し、『ポピュリズムに走りたいなら他党でやってほしい』と発言。これが火に油を注ぎ、党内は分裂の危機に陥っていたんです。
もし減税派が離党し、国民民主党に合流すれば、野党第一党の座を奪われかねません。それを避けたい野田氏は、本意ではない減税に歩み寄る決断を下したのです」(政治部記者)
この野田氏の方針転換について、「選挙対策の一時的な迎合にすぎない」と喝破するのは、元朝日新聞政治部デスクの鮫島浩氏だ。
「野田氏が財務省と強固な関係にあるのは広く知られるところです。“増税マフィア” と呼ばれる財務省が恒久減税を極端に嫌うのは明白ですが、一時的な施策であれば、現金給付型のような例外措置として容認できるわけです。
おそらく、財務省が裏で全部試算して『1年間なら大丈夫』とお墨つきを与えているはずです。そして、選挙後に税率を戻す法制度や仕掛けを仕込んでおけば、減税ぶんはすぐに取り戻せます。
今回の施策は、まさにそのような『増税を前提とした時限的減税』にほかならず、参院選を乗り越えるための方便にすぎません」(以下、「」内は鮫島氏)
そして、立憲の減税方針に難色を示すのは、自民党だ。
「各党が減税方針を打ち出し、このままでは参院選で減税反対の立場をとるのは自民党だけになってしまいます。
野田氏と財務省が手を組み、“減税カード” を切った以上、自民党が減税反対を貫く義理はもはやありません。自民党も歩調を合わせて減税案を出せば、『減税の是非』は参院選の争点ではなくなり、減税路線で人気を集める国民民主党の勢いを止めることができるでしょう。
ただ、少数与党である自民党が政権を維持するには、衆議院を解散して衆参ダブル選挙で勝利するか、連立の枠組みを拡大するしかありません。
自民党にとって望ましいのは、衆参ダブル選挙で勝つことですが、いまの石破政権では勝ち目がほとんどない。ダブル選挙でボロ負けすれば、党が本当に終わってしまうリスクもあります。そのため、選挙後に “大連立” に進む可能性は十分に考えられます」
参院選後の政界再編が現実味を帯びてくるなかで、連立の可能性は3党に絞られる。
「連立した場合に過半数を見込める野党ですから、立憲、国民、維新の3党が該当します。立憲の場合は、自公立の “増税型大連立” となり、野田氏が首相に再登板するでしょう。そして、国民の場合は、自公国による “減税型連立” となり、玉木雄一郎氏が新首相に担がれることになるでしょう。
維新による自公維の “現状維持型連立” も可能性としてはありますが、吉村洋文代表は国会議員ではありませんし、共同代表の前原誠司氏は党内基盤が弱く、とても首相候補とはいえません。そのため、連立の可能性は低いでしょうね。
いずれにしても、どの道を選ぶかによって、財政政策の方向性が大きく変わります」
鮫島氏によると、“ポスト石破” の大本命は野田氏。つまり、自公立の大連立の可能性が高いと見ている。
「民主党の野田政権のとき、自公民3党の合意で消費税増税を決めましたが、あれと同じパターンです。いまの自民党執行部は、石破首相、森山裕幹事長、林芳正官房長官らが、いわゆる緊縮財政、増税派なんです。
そして、立憲も一時的に減税を表明しましたが、増税派が多い。いずれも財務省に近いんです。増税至上主義の財務省にとっても、自公立の大連立は最高のシナリオでしょう。
もちろん、増税を明言することはなく、『しばらく選挙もないから政権を安定させましょう』という名目で大連立を組むでしょう。自民は参院選で敗北して発言力が落ちると思うので、大連立の “カード” として、野田氏を総理大臣に担ぐことになります」
野党第一党ながら、政策論議で “蚊帳の外” が続いた立憲の、まさに “ウルトラC” 作戦だ。
「実は、森山氏にとっても、立憲との大連立が望ましいのです。石破氏が失脚して野田総理が実現したら、実質的な自民のトップは森山氏ということになる。
お飾りの林氏あたりを総裁に据えれば、自分がいちばんの権力者として大連立を牛耳れるわけです。そのとき、立憲は以前から関係の深い安住淳氏が幹事長のままでしょうから、森山―安住ラインですべて仕切れるわけです」
とはいえ、連立画策の裏で自民党内の覇権争いもおこなわれている。反主流派の麻生太郎元首相らも黙ってはいない。
「主流派が自公立の大連立を目指す一方で、反主流派である麻生氏や茂木敏充前幹事長が進めようとするのが、自公国の連立です。
財務大臣を10年近く続けた麻生氏は、本来、減税派ではありませんが、政敵の石破氏と組んだ立憲との大連立は選択肢にないでしょう。森山氏や林氏が “敵” という理由で、石破氏の辞任後におこなわれる総理大臣指名選挙では、玉木氏を推薦するはずです。
じつは、自民には有力な総理候補がいないので、むしろ玉木氏を総理にしたほうが都合がいいんです。“キングメーカー” として操れますから。
いまは少数与党で玉木氏が必要なだけなので、ほとぼりが冷めて玉木氏の人気が落ちた頃にクビを切り、また自民の総理に戻せばいいという考えもあるでしょうね」
参院選に向けて、各党の思惑が錯綜し始めている──。