社会・政治
コカイン供給量が過去最高水準「有名ミュージシャンも日常的に」元売人が警告鳴らす「蔓延の現状」と「危険な粗悪品流通」

画像はイメージ(写真・PIXTA)
中毒性の高い違法薬物、コカインの供給量が、世界的に過去最高水準になっている。
米国と国連の麻薬取締機関は2024年、コロンビアにおけるコカインの年間生産量を3000tと推定している。これは、取り締まりがもっとも厳しかった2012年との比較で、約8倍の規模にまで膨らんだことになるという。
原料となる植物・コカの栽培面積も、コロンビア国内で約25万3000haに達し、米国による大規模摘発が始まった2000年との比較で、55%も増加しているというのだ。そして、“魔の手”は日本にも伸びている。大手紙の警視庁担当記者は、現状をこう解説する。
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「日本国内への流入も急増しています。警察庁のまとめによれば、2024年1年間の、国内での麻薬や向精神薬による検挙人数は1250人で、うち約半数の586人がコカイン関連と、大幅に増回しています。さらに財務省のまとめでは、密輸品の押収量も増加しており、押収量は260kgと前年比で約2.1倍にもなりました。しかし、摘発件数は逆に54件と、前年から24%も減少しています。つまり、水際での押収を逃れて、相当量のコカインが国内に持ち込まれていると推定されるんです」
警察庁もこうした実態にともない、「若年層で人気のある大麻やコカインは、ファッション感覚で使用する人が多い」と警告したうえで、「依存性が高く、一度手を出したら抜け出せず身を滅ぼしてしまう。安易な気持ちで手を出さないでほしい」と注意を呼びかけている。
では、コカインはいかにして市中に蔓延していくのか。
「覚せい剤などの薬物取引は、新宿や渋谷、六本木といった繁華街でおこなわれることが多い。しかし、コカインは普通の住宅地でやり取りがされている」
こう明かすのは現在、複数の薬物事件の被告として裁判中の、元コカインディーラー(売人)のA氏。日本の“薬物網”の実態を、さらにこう続けた。
「コカインの販売所となる“薬局”は、渋谷区や世田谷区などの、都内でも住宅の多い地域にある。以前は繁華街が中心だったが、当局の内偵などもあり、新型コロナウイルスの流行後は住宅街に移った。
有名なところでは、1階にコンビニがある雑居ビルの非常階段などだ。取引時間は『シグナル』など、携帯電話の暗号回線を使う。『パケ』といった薬物関係の言葉はいっさい使用しない。値段は、わかる人間にはわかるような暗号を使った伝達方法になっている」
じつは、A氏はある有名ミュージシャンの名前を本誌に明かしていた。ヒットチャート1位になった曲も複数あり、紅白歌合戦への出場経験もある音楽グループのメンバー・Bによる、ほぼ日常的な薬物使用の実態である。
「Bは、友人で自宅に近い都内のバーの経営者とつるんでいた。このバーの経営者は、都内の不動産会社経営者の息子で、賃貸マンションを経営する会社の役員でもあった。Bは、その会社の賃貸物件を“コカイン部屋”として借りていた。
バーは、Bが来店する店としてファンの間では知られており、来店した女性客でBが好みそうなタイプがいると、店員がBに連絡。女性客をあっせんして、コカイン部屋に連れ込んでいた。コカインは、バーの経営者が先のコンビニ階段の“薬局”か、外人風の名前のコカインディーラーから調達していた。
Bが薬物にハマっていることはほかのメンバーも知っていて、所属レーベル会社はBを脱退させたがっている。だが、メンバーはBへの温情もあって、処遇を決めかねているようだ」
薬物の蔓延はもちろん問題だが、さらに状況が悪いのは、粗悪品の流通だという。A氏が続ける。
「供給量が多くなったことで値段は下がっているし、Bが使うような“上物”は、使用したことで逮捕されようが、依存症になろうが自業自得だ。しかし、一般に広がっているなかには、小麦粉やベビーパウダーなどの混ぜものをしたものも多い。混ぜもののコカインは、1回の使用でもアナキラフィシーショックなど、不測の事態を起こすこともある。
さらにいうと、米国で『最悪の違法薬物』と呼ばれるフェンタニルを混ぜたコカインもかなり出回っている。フェンタニルを混ぜると、際限なく効き目が高くなるだけでなく、中毒になるのも早い。薬物依存症の人間は、作用の強いほうへと流れる。覚せい剤や大麻の流通量が減っているのは、混ぜ物入りも含めた安価なコカインが出回っているからで、実際には、摘発の成果とはいえないと思う」
禁断症状で凶暴性を発する場合もあり、他者を巻き込んだ事件に発展することも否定できないという。薬物の蔓延は、当事者だけの問題ではないのだ。