パリのデモで暴徒化した若者たち(写真・共同通信)
フランスで10月17日におこなわれた全国規模のデモが暴徒化し、パリでは現在、一部で夜間外出禁止令が出るほどの事態に発展している。発端は、貧困地区の高校生たちによる抗議活動だった。なぜ、これほどまでの混乱を生み出すことになってしまったのか。神戸大学大学院人文学研究科講師の山下泰幸氏が、デモの背景について語る。
「すべての学校、とくに貧困地域の学校ほど環境が悪く、教員不足が顕著になっています。フランスでは教員の欠員によって半年間、授業が開講されないということが普通に起きていて、大学に行きたいと考えている学生には大きな負担となっています。また、施設の老朽化も深刻で、2026年の夏は本当に暑かったのに、エアコンがない学校も非常に多くありました」
こうした劣悪な環境に声をあげるのは当然のことだが、暴徒化した人々は高校生とは別だという。
「ニュース映像では、あらゆるところで激しい暴動が起きているように見えますが、大規模なデモがあれば必ずその混乱に乗じて、暴行を働く人たちが途中からたくさん参加してくるのが、近年のフランス社会の雰囲気です。
彼らは『ブラックブロック』と呼ばれる集団で、ネットなどで政治的な要求をするわけでもなく、感情の発露や鬱憤を晴らすため、略奪行為をおこなっています。長期的な展望がなく、生活が不安定な貧困家庭出身の若者たちが中心です」(山下氏)
高校生のデモが全国的に広がった背景には、物価高と政権への不満がある。ガソリン代の高騰が死活問題となっているうえ、政府が歳出削減を進めようとしているためだ。公務員や労働組合なども合流し、世論調査では国民の約70%がデモに賛同しているという。
一方で、便乗した若者たちによる略奪行為は市民生活を脅かしている。国際ジャーナリスト山田敏弘氏が略奪の実態と格差について語る。
「善良な市民からしてみれば、普通に商売しているだけなのに商品から何から全部奪われているわけですからね。暴徒化している人たちはどうなんだという声も当然出始めていて、大混乱になっています。
背景としては、やはり社会の深刻な格差ですよね。逮捕されても痛くも痒くもないような人々が車に火をつけて大暴れする通りで、優雅にワインを飲みながらレストランで食事をしている人たちがいるという構図の写真がSNSで出回りました。まさに今のフランスの象徴的な1枚といえるかもしれませんね」
フランス全体の若年失業率は20.8%だが、パリ郊外の団地などでは40%から50%に達する地区もあるという。この社会的混乱は、6カ月後に控える次期大統領選挙にも直結している。再び山下氏が解説する。
「マクロン大統領はこれ以上任期を務められず、必ず新しい大統領に変わります。現在、極右の支持が広がり、人気調査では第1党となっていますが、独特の2回投票制によって、これまで極右政権は誕生していません。もし極右の大統領になれば、市民に対して抑圧的な政権になることは間違いありません。一方で、今回のデモで参加者の心をつかみ、支持を広げているのは『不服従のフランス』という急進左派の政党です。極右と急進左派という、極端な方向に国民が流れてしまう可能性が高まっています」
深い分断が生まれようとしている。
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