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車で殺されれば6000万円なのに…通り魔被害は「殺され損」と弁護士
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.07.05 06:00 最終更新日:2019.07.05 06:00
「内閣府は、犯罪被害者遺族への給付金は、自動車事故で被害者に支払われる『自賠責保険の保険金』と同程度になっていると言っていますが、まやかしですよ」
こう語るのは、「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」事務局長の高橋正人弁護士(63)。弁護士登録をした1999年以来、犯罪被害者支援を続けている。
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このところ、凄惨な事件が後を絶たない。まだ記憶に新しいのが、5月28日に川崎市で起きた児童ら20人への無差別殺傷事件だ。岩崎隆一容疑者(51)が犯行後に自殺したため、いまだに決定的な犯行動機は解明されていない。事件現場では、長らく献花に訪れる人が絶えなかった。
さらに6月24日には、名古屋市内の路上で男性2人が犠牲になる事件が起きた。死亡したのは44歳と41歳の男性。2人は現場付近に住む、同じ会社の同僚だった。
愛知県警は現場近くに住む無職・佐藤俊彦容疑者(38)を逮捕。被害者たちと口論になった末、刺殺した「突発的」な犯行とみられている。犠牲者の体には多数の刺し傷があり、佐藤容疑者には強い殺意があったとみられる。
こうした事件や犯罪に巻き込まれてしまったとき、残された遺族はどうなるのか。遺族の生活や経済支援について言及されることは少ない。前出の高橋弁護士が語る。
「被害者が不慮の死を遂げた場合、犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)で『遺族給付金』が支払われます。支給額は、被害者の年齢、収入と、扶養していた人数に応じて決まり、最低320万円から最高限度額2964万5000円です。
ただし、会社や友人などの人間関係が背景にある事件だと、3分の2に減額されます。これまでに最高限度額が支給されたことは、一度もありません」
その犯給法による支給額について、高橋弁護士が作成したのが上の表だ。2017年度に支給された額の平均は、628万5000円となっている。
名古屋の事件で殺された44歳男性は、妻と子供2人との4人暮らし。表中(3)の条件に当てはまる。41歳男性は妻と4人の子供との6人暮らしで、表中(4)の条件になる。
「一家の大黒柱を失った遺族には、正直、見舞金程度です。現在の日本の制度では、被害者は “殺され損” なのです」(高橋弁護士)
さらに、労災が支給された場合や民事訴訟で加害者への損害賠償請求が認められた場合も減額されてしまうという。
川崎の無差別殺傷事件では、岩崎容疑者が死亡しているため、損害賠償は見込めない。犠牲となった外務省職員の39歳男性は、妻と子供が1人いたため、支給額は表中(2)の条件になる。
もうひとりの犠牲者、11歳の少女には収入がないため、支払われるのは(1)の最低保障額だけだ。内閣府が引き合いに出す「自賠責保険」の支払額とは、大きな隔たりがあるのだ。
だが、同じ「不慮の死」でも、交通事故となると話はまったく違うという。
4月19日、東京・池袋で飯塚幸三容疑者(88)が起こした自動車暴走事故では、31歳女性とその娘の3歳女児が犠牲になった。
「交通事故の被害者には、自賠責保険だけでも死亡で3000万円。任意保険が加われば、6000万円以上の支払いになります。
私の感覚では、小学生が横断歩道で轢かれて亡くなると、約6000万円が遺族へ支払われます。40代の働き盛りの妻帯者なら、8000万~1億円。犯給法の支給金とは、桁がひとつ違います」(同前)
その “格差” が注目されたのは、2008年の秋葉原無差別殺傷事件だった。加藤智大死刑囚(36)がトラックで通行人をはねたあと、ダガーナイフで通行人を次々に襲撃した。
「刃物で刺された10代~20代の犠牲者は、犯給法で300万~400万円が支払われただけ。一方、トラックで轢かれて亡くなった人には、6000万~7000万円が支払われました。同じ犠牲者でもこんなに大きな差があるのです」(同前)
犯給法は、2008年に大きく改正されたが、まだまだ日本は犯罪被害者への経済的補償で立ち遅れている。ドイツでは手厚い被害者補償法がある。
「家族が殺されると、失われた収入額の42.5%が、年金として支給され続けます。『国が国民を守らなければいけないのに、守りきれなかった。その責任は国にある。だから国は犯罪被害者に対して手厚い補償をしなくてはいけない』という発想です。
イギリスは、日本と同じ一時金が支払われますが、交通事故と同程度の6000万~7000万円が支払われます。しかし日本では、本来、殺人犯が払わなくてはいけないものを、『なぜ税金で払うのか』という意識が強いのです」(高橋弁護士)
被害者遺族の無念を高橋弁護士が代弁する。
「遺族のいちばんの望みは、犯行動機など、事件の真相解明です。犯人が生きていれば、まだ『なんでうちの娘なんだ』と問いただすことができます。
でも、川崎の事件のように、犯人が自殺すれば、その機会も奪われてしまう。刑事罰も与えられず、真相解明もできず、犯給法での支給額もわずか。遺族は誰に怒りをぶつければいいのでしょうか」
給付金が支払われたからといって、遺族の心が癒されることはないが、“格差” は是正されるべきではないか。
(週刊週刊FLASH 2019年7月16日号)