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ソフトバンク社員が逮捕…ロシアスパイの籠絡テクニック

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.02.27 11:00 最終更新日:2020.02.27 11:00

ソフトバンク社員が逮捕…ロシアスパイの籠絡テクニック

FSBはロシア国内の防諜活動を、日本での諜報活動はSVRとGRUが担う

 

ロシアスパイかもしれない」
 うすうす勘づきながら、弱みにつけ込まれたソフトバンク社員は、接待や現金の提供を断わることができなかった。相手は、偶然を装って声をかけてくる。最初の依頼は、ごく簡単なことからだった……。

 

 その「ソフトバンク社員」こと、同社モバイルIT推進本部の元統括部長・荒木豊容疑者(48)が、ロシア人に声をかけられたのは、2017年春、東京都港区の本社の近くだった。流暢な日本語。目立たない地味なスーツ。悪い印象は、なかった。

 

 

「今度、食事でも」 
 そう誘われて、ときどき会うようになった。場所は大衆的な居酒屋が多く、最初は割り勘。打ち解けるにつれ、仕事の話や趣味の話もするようになった。ロシア人は聞き上手だった。

 

 やがてロシア人は、“情報” を欲しがるようになった。最初は、公開情報の資料のコピーを求められ、応じると「お礼に」と数万円を渡された。

 

 当初は名前や肩書、連絡先などは教えてもらえず、会うたびに次の面会日を指定された。向こうから連絡があるときは、公衆電話からだった。 

 

 その後も会うたびに、なんらかの情報提供を要求され、そのたびに数万円を渡された。結局、ロシア人とは20回ほど会い、受け取ったカネは合計で数十万円にもなっていた――。

 

 1月25日、荒木容疑者は「不正競争防止法違反」の疑いで、警視庁公安部に逮捕された。会社のサーバーから、社外秘の文書を入手。USBメモリに記録して渡し、見返りに数万円を受け取った容疑だった。

 

「社外秘の資料まで要求されるようになり、スパイかもしれないと思ったが、小遣いが欲しかった」(荒木容疑者の供述) 

 

 作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が解説する。

 

「最初は公開情報を提供させ、軽いご馳走や車代として、5000円から1万円くらいの金銭を与える。そのことによって情報提供に慣れさせ、次第に重要な情報を入手できる環境を作り上げていく。情報提供者の心理的な負担を少しずつ減らしていく、スパイの典型的な手口です」

 

 このロシア人は、在日ロシア通商代表部ナンバー2のアントン・カリーニン代表代理(52)。2017年に赴任し、前任者から、荒木容疑者の情報を得ていた。

 

 外交官のカリーニンには、もうひとつの顔があった。

 

「ロシア通商代表部は、ソ連時代から諜報機関のカバー(偽装)として用いられてきました。カリーニンは、SVR(ロシア対外情報庁)に所属するスパイだったのです」(佐藤氏) 

 

 ロシアスパイは、なぜソフトバンク社員を狙ったのか。荒木容疑者は、5Gの通信設備を構築する部門の責任者だった。

 

 各国のスパイおよそ100人を取材してきた、国際ジャーナリストの山田敏弘氏が語る。

 

「じつはロシアは当初、アメリカを牽制するために、アメリカからの禁輸措置がある中国『ファーウェイ』の5G技術を取り入れようとしていました。しかし、それではロシアの通信インフラが、中国主導になってしまいます。

 

 そのため、途中で自前での開発に切り替え、5Gの技術情報を集めていました。その格好のターゲットとなったのが、ソフトバンクだったのです」

 

 しかし、今回ロシアが入手したのは、それほど重大な機密情報ではなかった。インテリジェンスに詳しい、あるジャーナリストが語る。

 

「漏洩したのは基地局の手順書で、機密情報とはいえません。普通は泳がせておくケースですが、警視庁公安部は、この段階で荒木容疑者を逮捕しました。ロシアを牽制するとともに、スパイに狙われる日本企業に、警告を発したわけです。

 

 今回スパイに利用されたのは、日本の普通のサラリーマンでした。誰もが、スパイに食い物にされる可能性が十分にあるのです」

 

 カリーニンは、2月10日午後1時すぎ、成田からモスクワに向けて出国した。

 

「当局の摘発を受けたスパイは、その週のうちに帰国するのが普通ですが、カリーニンは警視庁の出頭要請に10日以上も応じないまま帰国してしまった。『政府関係者には、不逮捕特権があるから逮捕されない』と高をくくっていたのです」(同前)

 

 いざとなれば、帰国すればいい。スパイし放題なのが日本の現実だ。


(週刊FLASH 2020年3月3日号)

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