■野球ほどの興奮は得られないんだ……
レンジャーズ退団後の2002年に、選手と通訳としての関係はいったん解消となった。その後、伊良部氏が阪神に入団すると、今度は代理人事務所の担当者となった。
だが小島氏は、阪神退団後の伊良部氏の変調に気づく。
「阪神退団の3年後くらいだったと思いますが、ヤンキースのOBが集うサイン会に呼ばれたんです。そのとき口にしていたのが『野球をやめたあと、燃えるものが何もないんだ。現役時代が懐かしい』と。
で、久々にOBたちと会って『今は何をやっているんだ?』と聞いて回るんです。すると、ほとんどのOBが『子供の送り迎えしかやっていない』と言う。それを聞いて『そうか……』と、寂しそうな表情を浮かべていました。
ラブさんは燃えるものを探すためにゴルフもやってみたけど長続きしない。トライクといって、バイクの大型三輪を買って乗っていたんですけど、彼の家に久しぶりに行ったらホコリを被って放置されていました。いろいろやってみたけど『野球ほどの興奮は得られない』と言うんです」
そして2011年7月27日、ロサンゼルス近郊の自宅で、首を吊った状態で死亡している伊良部氏が発見された。
「あのころは、確かに元気がありませんでした。でも月に1、2回は連絡を取り合っていたんです。それだけにショックでした。じつはあの年、ラブさんは飲酒運転を犯し、年末まで米国から出国できなかったんです。
それまでは、たまに日本に帰ってきて知り合いと会って、ときにハメを外すまで飲んでいた。気分転換ができない、そしてどうしても燃えるものを見つけることができない――。それが重なっての悲劇だったのではないでしょうか」
小島氏はこの10年間、時間があるときは、できるだけ伊良部氏のお墓に立ち寄るようにしているという。
「しゃべるのが大好きな人だったので、話し相手になれればいいなと。きっと、天国でも往年の名選手たちと、野球談議を楽しんでいると思いますよ」
写真・桑原靖、ロイター/アフロ
(週刊FLASH 2021年8月17日・24日号)