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野村克也の遺言「大監督たるリーダーの基本は『信は万物の基』」

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2017.01.21 20:00 最終更新日:2017.01.21 20:00

野村克也の遺言「大監督たるリーダーの基本は『信は万物の基』」

 

野村克也不倫!」
 一部スポーツ紙に衝撃的な文字が躍ったのは、1969年のことだ。前任の南海・飯田徳治監督が、戦後初の最下位の責任を取って辞任。再建を託されたのが、まだ選手でもあった野村克也氏(当時34歳)だった。

 

 そして、就任の要請を受けると同時に、冒頭の見出しがスポーツ紙に載ったのである。

 

「これは後でわかったことだけど、その記事をリークしたのは元南海監督の鶴岡一人さんだった。じつは要請を受けたオフに球場で会ったとき、『監督要請をされました。一度ご自宅へご挨拶に伺ってもいいでしょうか?』と聞いたわけ。

 

 すると、いきなり『お前は監督という仕事をわかっているのか!』と鶴岡さんは怒り出した。南海を作り上げた自負があるから、テスト生上がりの俺にやらせたくなかったんだな」

 

 恩師と思っていた人物からの意外な言葉。その後、監督と選手を兼務する難しさが加わり、1977年に南海の監督を解任されてからは、監督という選択肢を自ら消そうとした。

 

 だが、思わぬ人物から声がかかる。パ・リーグひと筋の野村氏に要請したのは、当時セ・リーグで低迷していたヤクルトの相馬和夫球団社長だった。

 

「まったく縁もゆかりもないヤクルトだったから、意外だったね。で、『なぜ僕なんですか?』と聞いたわけ。

 

 すると、『野村さんの野球解説を聞いて感動した。野球にはこんな考え方もあるのかと。だから、あなたの考えでヤクルトを強いチームにしてください』という答えだった。嬉しかったね。見てくれている人は、ちゃんと見ているんだと」

 

 これまで野村氏は、プロでは南海に始まり、ヤクルト、阪神、楽天の監督を務めてきたが、ただの一度も要請を断わったことがない。

 

「俺のところに来るということは、球団内で熟慮の末のこと。ならば、断わる理由はない。ただし、ひとつだけ条件があって、就任1年めで優勝を期待するなら断わるということ。戦力を見て断わるやつがいるでしょ。星野仙一なんかその際たる例だわな(笑)。

 

 まあ、俺が引き受けた球団は、すべて下位に低迷していたからね。相馬社長は、『かまいません。3~5年かけて優勝争いのできるチームを作ってください』と言ってくれたよ。この人がトップに立つチームなら、やっていけると思った。

 

 事実、ヤクルト1年めの成績は前年からひとつ下げて5位。相馬社長は、役員から『総攻撃を受けた』と吊るし上げを食らったらしいんだ。でも、『野村さんならきっと変えてくれる。いまは我慢の時』と押し切ってくれた。組織はリーダーの力量以上に伸びない、と再確認させられたよ」

 

 日本一に3度輝いたヤクルトでは、組織のトップである相馬社長と厚い信頼で結ばれていた。ひとつの例が、1992年のドラフトでの出来事だった。

 

「編成部の全員が、『向こう10年、四番は彼で大丈夫』と、松井秀喜を推した。でも、俺は翌年も結果を残さないとクビの可能性がある。10年先じゃなく即戦力として、社会人出身の投手・伊藤智仁が欲しいと言った。

 

 それでも、編成部は松井一辺倒。ドラフト当日まで揉めたんだけど、最後は相馬社長の『つべこべ言わずに監督の希望でいこう』という鶴の一声で決まったんだ。

 

 ヤクルトの監督は9年やったけど、俺にとってのヒーローは相馬社長だった。その後、阪神、楽天の監督をやったけど、相馬社長のような存在はいなかった。

 

 阪神なんか1年めが終わった時点で、『やっていく自信がない』と辞任を申し出た。想像以上に現場以外がダメな球団だったし、このとき初めて球団は選ばないかんと悟ったよ(笑)」

 

 フロントに掛け合いながら、現場に出るのが監督の立場。いちばん大切なことは、選手との信頼関係だという。

 

「これまで、大監督といわれる人のほとんどが選手から信頼されていた。信は万物の基をなす、ということだな。その意味でも、監督の発する言葉は大事。

 

 俺は鶴岡さんとはうまくいかなかったけど、かけてもらった言葉はいまも忘れない。3年めだったかな、ふだんは挨拶をしても無視するような人が、いきなり『お前、ようなったなあ』と言ってくれた。認めてくれているんだと、自信がついた。

 

 多くを語る必要はない。ひと言でいいんだよ。監督のひと言が、選手に多大な影響を及ぼすくらいにならないと。それが大監督であり、真のリーダーなんだよ」
(週刊FLASH 2017年1月3日号)

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