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オリックスはなぜ優勝できたのか…選手経験がない中垣征一郎コーチが生んだ “新潮流”

スポーツ 投稿日:2022.01.02 11:00FLASH編集部

オリックスはなぜ優勝できたのか…選手経験がない中垣征一郎コーチが生んだ “新潮流”

胴上げされるオリックス中嶋監督(写真・時事通信)

 

 2021年から「代行」の肩書が取れ、監督に正式就任した中嶋聡は、キャンプイン前日の1月31日、こんな “所信表明” を発していた。

 

「厳しく、明るく、自分でどこまで追い込めるか。練習は、こちらから言うことでもないし、それぞれに求めたい。妥協なきキャンプにしたい」

 

 

 宮崎キャンプでの中嶋は、神出鬼没だった。メーン球場で姿が見えなくなったかと思うと、隣の第2球場のグラウンドで調整中のベテラン選手と話し込んでいたりする。

 

 このキャンプ地の、そこが最大の良さでもある。監督もコーチも、思いついた時に、気になる選手の動きをすぐに、さっと見に行けるだけの範囲内に、球場も、ブルペンも、室内練習場も、多目的グラウンドも、すべてあるのだ。その「観察」が、コーチ陣へ与えた最大の課題でもあった。

 

「コーチは、自分の色を出していこうという考えもあると思います。でも、まずは見てからにしてほしい」

 

 若い選手を指名して、ノックの雨を降らせる。若い投手を呼んできて、ブルペンで投げ込みをさせる。そうやって、まずは数をこなす。プロとしての練習を体に覚え込ませる。そうしてやらなければ、まだ右も左も分からないレベルの若手選手もいる。だから、若いやつは練習しろ。理屈じゃない。バットを振れ。球を投げろ。

 

 それが、これまでのプロ野球界の半ば “常識” でもあった。しかし、中嶋はそれをコーチ陣に求めなかった。

 

 プロとして、今の自分に何が足りないのか。選手が自分で模索し、見つけ出したその課題を克服しようと、まずは自ら動いてみる。ただ、その過程で選手が迷い、助けを求めてきた時に初めてコーチの出番になる。その時まで、じっと待つ。やらせるのではなく、気づかせる。それが、中嶋の方針だった。

 

 2021年のオリックスは、大胆な人事を行っている。「巡回ヘッドコーチ」に、中垣征一郎というトレーニングの専門家を置いたのだ。

 

 中垣には、プロ野球の選手としての経験は一切ない。筑波大を卒業後、運動学を学ぶために米・ユタ大学大学院へ。その留学中に、MLBのニューヨーク・メッツで臨時トレーナーも務め、帰国後の2004年から7年間、北海道日本ハムでチーフトレーナーの要職についていた。

 

 野球というスポーツの動きを徹底的に解析した上で、その動きに応じたトレーニングを行うべきだというのが、中垣の持論だった。その単純明快なコンセプトは、その当時の日本の野球界にはまだ、いや全くといっていいほど、浸透していなかった。

 

 中垣の理論や方法論に共感し、積極的に取り組んでいたのが、日本ハムの当時のエース、ダルビッシュ有(現サンディエゴ・パドレス)だった。メジャーのテキサス・レンジャーズに挑戦の場を移した2012年に、ダルビッシュは中垣とともに渡米。中垣はダルビッシュの専属トレーナーを務めている。

 

 翌2013年に、中垣は日本ハムへトレーニングコーチとして復帰。2017年から2年間、今度はサンディエゴ・パドレスの応用スポーツ科学部長に就任し、メジャーリーガーたちのトレーニングを指導している。その “最新鋭の野球トレーニング” に着目したのが、オリックスGM・福良淳一と中嶋聡だった。

 

 野球選手は、とにかく走れ。そうやって下半身を鍛え、スタミナをつけていくんだ。その “不朽の固定観念” に、中垣は異を唱え続けてきた。

 

 例えば、打者が打って走り出し、一塁ベースに到達するまでの時間は、足の速い選手なら4秒前後だ。二塁打でも8秒前後、三塁打なら12〜13秒だ。ならば、その短い時間で、一気にトップスピードに乗せるための練習が必要になる。

 

 しかし、野球界で「走り込み」といえば、イコール長距離走のことであり、それは運動中に酸素を取り入れながらエネルギーを生む「有酸素運動」になる。しかし、野球のプレーにおいては、爆発的な力を一瞬で出す「無酸素運動」の要素が必要とされるシーンの方が、明らかに多いのだ。

 

 ダルビッシュ有が2020年3月24日、自らのTwitterでこんな発信をしている。

 

「自分が日本ハムに入った2005年より前ぐらいから当時のコーチと半ば喧嘩しながらも、無駄なランニングを排除していったのが現オリックス中垣征一郎さんです。球団首脳にも理解があったから2005年にはすでに日本ハムには無駄なランニングがなかった」

 

 キャンプのスタートは、投手と野手が隊列を組み、号令を掛けながら、球場内を走るランニングから。そんなシーンも、オリックスからは消えた。

 

 ならば、短いダッシュを繰り返すのか。それだって、ポジションや個人の役割に応じて、やり方も本数も、狙いも変わってくる。だから、全員で同じことをやる時間は必然的に減っていく。個々でやるべきことがあるからこそ、個人練習の時間が増えるのも、当然のことなのだ。

 

 選手個々が、それぞれのメニューを、それぞれで考えながら取り組んでいく。そこで迷いが生じた時、その方向を修正してやるのがコーチの役割でもある。

 

 好調の時と、調子が狂った時は、どう違うのか。その指摘ができるように、そのための準備と知識を蓄えるためにも、コーチ陣には「見る」ことが必要なのだ。その練習スタイルと指導方針が、チーム内できっちりと統一されたのだ。

 

 2軍で結果を出して、1軍に上がってくる。その若手に「お前、2軍で何教えられてきたんや」。そう言い放ち、いわばマウントを取って、また新しいことを教えようとする古株のコーチの姿を、私もよく見たものだ。

 

 しかし、2021年のオリックスからは、その1、2軍間の “齟齬” がなくなった。明確な指針に基づいて、コーチが動く。だから、選手も判断しやすい。

 

 無駄を省き、やるべきことがチーム内で明確にされている。だから、泥だらけになって球に飛び込むノックや、コーチの怒鳴り声といった、お決まりのシーンが一つ、また一つと消えていく。そうした “新たな潮流” の一環が、試合前のシートノックの廃止だった。

 

 試合前、ビジターチームの打撃練習が終わるのが、試合開始の45分前。その後、およそ15分ずつ両チームにシートノックの時間がある。野手が全守備位置に散り、ノックを受ける。これが、試合に臨むための一種のルーティンでもある。

 

 しかし、例えばナイターの試合前には、午後2時から2時間近く、ホームチームには練習時間が設定されている。その前に球場へ来て「早出」の打ち込みや、守備練習をする若手選手だって少なくない。

 

 ビジターで訪れた球場なら、季節によって、芝の状態、太陽や屋根の見え方、風の吹き方など、そうしたところをチェックする必要は確かにある。オリックスも、遠征初日や地方球場でのゲーム前には、その「確認」のために、シートノックを行うことはある。

 

 それ以外に、一体何の意味があるのか。練習した後に、もう一回改めて、それも試合直前にノックを行う必要があるのか。オリックスは、チームの総意で試合前のシートノックをやめることを決めた。中嶋から、選手たちにこう告げられたという。

 

「試合開始したら、100%の力で臨めるようにしておいてくれたらいい」

 

 試合前、たった一人で、耳にイヤホンを突っ込み、音楽を聴きながら集中力を高めている選手がいれば、試合開始直前までベンチ裏の室内練習場で打ち込んでいる選手もいる。プレーボール直前に、外野でダッシュを始める選手もいる。それぞれのスタイルで、試合に入ってくれたらいい。

 

 中嶋は、毎週月曜日、基本的に試合のない日の投手練習も、個人でやらせる形にした。通常は、各チームとも調整したい投手が集まるスタイルだったが、それもやめた。それが、プロフェッショナルだ。個を重視する、そのスタイルが、2021年のオリックスだった。

 

 

 以上、喜瀬雅則氏の新刊『オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年』(光文社新書)をもとに再構成しました。スカウト、育成、体調管理、選手起用――組織変革のキーマンたちを徹底取材。

 

●『オリックスはなぜ優勝できたのか』詳細はこちら

 

( SmartFLASH )

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