■魔改造できるのは自分で考えて行動に移せる選手
では、「魔改造」で伸びる選手の条件とは?
「練習を真剣にこなすことは最低条件ですが、それ以外の与えられた課題を自分で考えて、身につけるためには何をすればいいか、行動に移せる選手なんです。これが第一の条件ですね。
うまくなりたいとみんな思っているんですが、行動がともなわないんです。うまくなりたいと言いながら、遊びに行っちゃうとかね。そういう部分で千賀は優れていました。
やれと言われたことだけをこなしているような選手は、伸びないですね。そうじゃない人もたまに1軍で活躍するんですが、まず続かない。一瞬活躍するだけなんです、そういう人は」
倉野氏は2021年にソフトバンクを退団し、2022年はアメリカに行き、球団のコーチング論を学ぶ計画だという。
「アメリカは、日本人にとって合うか合わないかは別として、考え方も含めて進んでいるので、現地に行って『どのようにコーチングしているのか』とか『システムはどうなっているのか』といったことを、自分の肌で感じないといけないと思っています」
そんな倉野氏に、最後は少々意地悪な質問をしてみた。「もう少し魔改造し続けたかった選手はいるのか?」と。
「強いてあげるなら、カーター・スチュワートと杉山一樹ですかね」
スチュワートは2018年、大リーグ・ブレーブスの1順目指名を受けながら合意に至らず、2019年途中からソフトバンク入りした逸材だ。一方、杉山は、193cmの長身から投げ下ろす速球は160kmを超え、鋭く落ち曲がるスライダーも一球品。千賀をして「ブルペンでとなりで投げるのがいや。ポテンシャルのお化けです」と言わしめる期待の24歳だ。
「スチュワートはこの2年でかなり成長したので、もう少し見たかったですね。杉山にしてもそう。2人にはロマンがありますよね。どれだけスケールの大きな投手になるんだろうという。これって、誰もが持っているものではないですから。
ただ、すごいものを持っている選手というのは過去に何人もいたんですよ。いたんですが、その才能を開花させることなくやめていく。じゃあどうやったら花が開くのかということですが、そういったときに思い浮かぶのは、僕は心の強さというかメンタル面、考え方なんです。
強いというのは、緊張しやすいとかプレッシャーを感じやすいという意味の強さ弱さではなく、本当の芯の部分で『絶対こうなるんだ』という気持ちを持ち続けられるかどうか。行動がともなうのかどうかが思うんですよね」
昨季は故障者続出で4位に沈んだソフトバンク。だが、倉野氏の「魔改造」によって成長した若手投手たちは、「今季こそ!」と強い気持ちを持ってシーズンに臨むに違いない。
倉野信次
三重・宇治山田高から青山学院大を経て、1996年、ドラフト4位でソフトバンクに入団。先発、中継ぎとフル回転で活躍し、2007年に引退。その後、2009年に2軍投手コーチ補佐に就任。2011年からは3軍投手コーチを務め、2019年には1軍投手コーチとして日本一を経験。2021年シーズンで退団した。2021年12月に『魔改造はなぜ成功するのか』(KADOKAWA刊)を上梓
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