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やくみつる氏語る田中将大の凄さ「弁慶並にテンパらない」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2013.11.06 07:00 最終更新日:2013.11.06 07:00
プロ野球の日本シリーズ第7戦が3日、仙台市のKスタ宮城で行われ、楽天が巨人に3-0で勝ち、球団創設9年目で初の日本一に。9回から登板した田中将大(25)は連投をものともせず、見事胴上げ投手に輝いた。
その田中に新たな勲章が加わったのは、10月28日のこと。自身2度目となる『沢村賞』の受賞だった。漫画家のやくみつる氏は次のように語る。
「最初に受賞したとき、選考委員からマウンド上の雄叫びやガッツポーズに対してダメ出しがあったんです。ところが、いまも変わらずやっているわけですが、今回の選考委員は何も言わなかった。あのときだけの集中力から出ているものだと万人に認識されているわけです。相当な集中力のなせる業だというのが、観ている側も100%理解できる。いまはむしろ、田中のガッツポーズを見ると興奮する」
また、やくみつる氏は田中の、“たとえ大舞台であっても我を通す強心臓ぶり”、“己れの心をコントロールできる精神力”、“ピンチに動じない”といった長所を賞賛する。
「ランナーを出してからの投球が彼の最大の見せ場ですが、非常に平易な言葉であえて言うと、彼はそれでもテンパらないということですね。何かことに及ぶときには、普通の日本人って、テンパっちゃいますからね。それにはもちろん、技術力、精神力があるからだと思うんですが、それにしてもテンパらない。偉人でいえば?武蔵坊弁慶くらいまで遡らないといないかもしれませんね(笑)」(やく氏)
今年、『沢村賞』を受賞した際には、『田中将大賞』を新設するべきではという声が上がったほど、その存在はいまや日本球界の宝にとどまらず、“世界遺産”に登録したいぐらいの傑物だ。田中と同世代で『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』の著者で社会学者の開沼博氏は、次のような独自の『マー君論』を展開する。
「彼の『凄み』はトリックスター性を感じさせないトリックスター(開沼氏がここで語るトリックスターとは、『秩序をかく乱する文化的英雄』のこと)であるという点にある。トリックスター性とは、たとえば、少し上の世代の野茂英雄やイチロー、あるいは中田英寿がその言動から常に醸し出す『いかにもただ者じゃない感』を指す。トリックスターは、私たちの生きる社会に内在する中心的な秩序を壊し刷新する。マー君が成し遂げた無敗でシーズンを終えるという漫画のような偉業は明らかにすごいが、淡々と、かといって過剰にストイックなわけでもなく振る舞っているように見える」(開沼氏・以下同)
上の世代と田中は何が違うのか?それは『壁』の有無から説明できると開沼氏はいう。圧倒的な能力があるのに、“より高度な世界で力を試すことが許されない”、“過剰に根性論や物語性を求められる”など、上の世代には海外での活躍や成功者としての認知への壁の高さがあった。しかし、それらの壁は先行者によってだいぶん乗り越えられ、いまとなっては壁の向こうとこちらの行き来も容易になってきている。
「それをグローバル化や社会の成熟と呼ぶ者もいるだろうし、これは野球以外のさまざまな分野でも見られる。壁を乗り越えるということは、スター性を獲得するということも指す。その点、現代は絶対的なスターが生まれづらい時代である。にもかかわらず、飽くなき探究心、ハングリーさを持ちつづけることは困難なはずだ。無気力、無欲な世代、そうならざるをえない世代にいながら大きな仕事を成し遂げる、その強靭さこそがマー君の『凄み』なのである」
(週刊FLASH 11月19日号)