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岡田彰布が阪神を常勝にする! 「今まで何やってたんや!」愛弟子・赤星憲広氏が語る素顔
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2023.10.19 06:00 最終更新日:2023.10.19 10:19
セ・リーグ優勝を果たし、18日から始まるクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージに挑む阪神タイガース。18年間優勝に見放されたチームを変えたのは、大阪生まれ、生粋の阪神愛にあふれた65歳だ。流行語になった「おーん」「アレ」の裏に隠された、岡田野球の真実に迫る。
「お前ら今まで何やってたんや! 初歩的なことやろ。こんな練習もしてないんか!」
2月、阪神の沖縄・宜野座キャンプ。マスコミをシャットアウトした練習場に、怒りに満ちた岡田彰布(あきのぶ)監督の大声が響いた。臨時コーチとして参加していた野球評論家の赤星憲広氏が述懐する。
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「バントシフトのタイミングが合わなかったんです。内野手がどのタイミングで前に出るのか。ピッチャーの動作のタイミングであったり、キャッチャーの動きの合図を決めていたり、チームによって違うわけですが、本来は決め事があります。ですが阪神にはその決め事がなかったようで。僕も、なぜこんなことができないんだろう? 監督が怒るのも無理ないなと思いました」
打者がバントの構えをし、投手がセットポジションに入り、一塁手の大山悠輔がベースを離れてホームに向かって走る……。今度は、見ていた赤星氏が思わず声を出した。
「おい、それじゃ(一塁手が)動いた瞬間に一塁ランナーが走れるから、簡単に盗塁できるよ! 大山が出るタイミングが早すぎる」
岡田監督が同調した。
「そやろ! そうやねん。おかしいやろ! こんなんできんで勝てるか!」
緊張感が生まれた。
「基本がすごく大事なので、選手たちに浸透させるために、あえて大きな声で怒鳴ったんだと思います」
今年、2度めの監督に就任するやいなや、18年間優勝できなかった阪神タイガースを勝たせた男、岡田彰布。彼は阪神の何を変えたのか。2005年優勝時の一番打者だった赤星氏に聞いた。
岡田監督がキャンプ時に熱心に取り組んでいたのが、内外野手の連携プレーの基礎練習だったという。
「送球が乱れるのを防ぐために、外野手の返球はカットマンに強く速く低いボールを投げることを徹底させていました。また、去年までは併殺崩れでランナーが残ってしまうケースが多かったんですが、中野(拓夢・たくむ)を二塁にコンバートしたことにより、二遊間が安定して併殺数が増えました。監督に指示されただけで、できることではありません。着実に若い選手たちが力をつけていると感じました」
今季、チームの併殺奪取数は130、外野手のノイジーの補殺数は12で、ともに両リーグ最多を記録。失点は424と、両リーグでもっとも少なかった。
クローズアップされているのが四球の数だ。投手陣の与四球は両リーグ最少の315、打撃陣の総四球は最多の494。シーズン前、岡田監督が「四球の査定ポイントを上げてくれ」とフロントに直訴したのは有名だ。だが、査定ポイントが上がったからといって、たやすく四球を選べるものではない。
「僕も、ファールで粘って四球で塁に出ていましたが、打者は、四球を選べと言われると、きわどいコースを振っちゃいそうな感じがあるじゃないですか。そこで監督は『見逃し三振はOK。ボール球を振るくらいなら振らずに戻ってこい』と選手に伝えたそうです。そこまでハッキリ言ってくれると、選手は楽な気持ちで打席に入れる。顕著だったのが中野ですね。超積極的なバッターで、昨年の四球数は18だった。それが、今年は57と劇的に増えた。積極性はそのままに、四球を選ぶこともできた。彼にとっては大きな1年になったと思います」
「盗塁は、全員サインや」
昨年までのチームの方針から大きく転換したのが盗塁だ。選手に盗塁の判断を任せる「グリーンライト」のサイン。岡田監督はシーズン当初、これを原則なくした。
「監督は『赤星、お前みたいなやつはおらへんのやから、(盗塁は)全員サインや』と言っていました。実際には近本(光司)はグリーンライトで、ほかの選手はサインだったようです。これまで選手は自分のタイミングで走っていたわけですから、まったく勝手が違います。監督から盗塁のサインが出ていたのに、ランナーが動けなかった場面がありました」
8月22日の中日戦。2対3、1点ビハインドの7回裏、先頭打者のミエセスが四球を選び、代走で熊谷敬宥(くまがい たかひろ)が送られた。岡田監督は盗塁のサインを出したが、熊谷はなかなかスタートを切れずにいた。近本、中野が三振を喫し、二死一塁でバッターは森下翔太。
「あとで監督に聞いたら『あいつ、何回サインを出しても走れへんのや』って言っていましたね。ただ、ディスボール(次の投球で盗塁しろというサイン)で走るのは、選手によっては難しい部分があります。監督の采配のなかで、盗塁に関しては、選手が唯一戸惑った部分かなと思います。でも熊谷は、盗塁できなかったため『森下のボールがどこへ飛んでもホームまで帰らなきゃ』と意識していたそうです。結果、森下が左中間へ二塁打を放ち、熊谷は一気に生還、同点に追いつきました」
今季、岡田監督の采配が次々と的中した。誰よりも驚いたのは、虎戦士たちだった。
「優勝したあと、坂本(誠志郎)や梅野(隆太郎)が『岡田監督は予言者ですよ。すごいっすよ!』って言っていましたが、それは僕もすごくわかるんです。僕も現役時代に、『監督はいったい何手先まで読んでいるんだろう? どうしてそこまでわかるんだろう?』と感じることが多々ありました。監督は選手の動きを細かく見ているし、コンディションも把握しています。適材適所で選手を起用する岡田マジックは、観察力にあると思います」
もうひとつ。赤星氏が忘れられないのは、岡田監督の “人間力” である。
「2010年、矢野(燿大・あきひろ)さんが引退するタイミングで慰労会がおこなわれました。当時、岡田さんはオリックスの監督だったんですが、(藤川)球児が岡田さんに『今、矢野さんのお疲れ様会やっているので来ませんか?』って連絡をしたら、来てくれたんです。ここでは明かせないような話をいっぱいして、いちばん酔っ払って帰っていきました(笑)。監督と選手の間には一定の距離があるものですが、岡田さんは口数は少ないけど、近くに感じさせてくれるし、親しみやすさがあります。この人のために優勝したいと思わせる、人間的な魅力があるんです」
<会心の采配「代打・原口」の裏側>
4月2日のDeNA戦。4対2と阪神リードで迎えた8回裏、投手は左投げのエスコバー。一死一塁の初球、中野の二盗が決まると、カウント0ボール1ストライクで、岡田監督は左の島田海吏(かいり)に代打・原口文仁(ふみひと)を起用した。珍しい、打席途中での代打。ここで原口は、エスコバーの154km/hのストレートを豪快に左翼スタンドへ運んだ。岡田采配が見事的中した試合だった。
前出の赤星氏は「もちろん、バッターがカウントの途中から打席に入るのは難しいです。ですから原口には、事前にそういうケースもあると伝えていた可能性があると思いました。常日ごろ、代打陣に準備をさせておく。僕らの時代よりも、突発的に『代打行くぞ!』というのは少ないのではないか」と推測する。
対する投手の心理を、野球評論家の下柳剛氏が解説する。
「エスコバーはストライクを1つ取っていたことで欲が出たんだと思う。あれがもし1ボールだったら、原口を歩かせていたかもしれないし、ピッチャーが交代していた可能性もあった。結果的に、DeNAの三浦(大輔)監督は手を打たず勝負をして、原口に一発で仕留められた。試合後、岡田監督に話を聞いたんだけど、あの場面『(打席にいた)島田以外は、全員、作戦を知っていたよ』って言っていた。原口にも聞いてみたら『その瞬間ではなかったけど、事前に、準備しておけと言われていました』と。今年、岡田監督の采配がハマるんじゃないかと感じさせる試合になった」
岡田監督は試合後のインタビューでこう振り返った。
「速いストレートを捉えられるのは原口かなと思っていたんで。予定通りだったかなと。まぁ俺にしたら、普通のことやろ。点取りにいくんやからさ。コーチかて『これすごい』って言うけど、いや、すごくない、普通やろ」
あかほしのりひろ
1976年4月10日生まれ 愛知県出身 2000年度ドラフト4位で阪神タイガース入団。プロ入り1年めに、盗塁王と新人王を獲得。以後2005年まで5年連続盗塁王を獲得し、通算381盗塁は球団最多記録。ゴールデングラブ賞6度受賞。2009年現役引退。現在、野球評論家
写真・馬詰雅浩(赤星氏)、共同通信