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高校スポーツの「合同チーム」が全国で増加、人数不足でも出場目指す新たな形「他校との交流で成長」

4回戦に臨んだ合同チームのメンバー。統一ユニホームだが、胸の部分だけ選手の所属校の名前が入っている
高校スポーツにおいて連合チームで戦うケースが増えている。少子化や生徒のスポーツ離れが顕著となり、部員不足や練習環境の不備等を理由に複数の学校が合同し、一つのチームを組んで大会に出場するのが当たり前になってきた。
事実、今夏の第107回全国高等学校野球選手権に参加した3396校中、学校の「統廃合による連合」が7チーム(14校)、「部員不足による連合」が148チーム(425校)あった。連合チームの出場は1997年に統廃合対象校等に認められてきたが、2012年の大会から特別の事情がなくとも認められている。では、まず野球の実態を見てみよう。
大阪府立北摂つばさ高校の伊野功史郎教諭は2021年に同校に着任。以来、9人メンバーの確保もままならない野球部顧問を務めている。京都教育大卒後は一般就職せず、社会人野球クラブチームや独立リーグの神戸サンズに在籍した経験を持つ。
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「ポジションは内野で、NPBを目指してました(笑)。引退後はいったん母校の(府立)春日丘高校で数学講師を1年務め、その後(府立)池田高校で教えつつ、野球部監督も7年続けましたが、生徒の募集自体に困らない進学校のほうが選手に事欠きませんね。常時50名ほど部員がいました」(伊野教諭、以下同)
翻って中堅以下の高校の人気は低迷。だから、野球部はおろか運動部全体が慢性的な部員不足なのだという。北摂つばさの場合、ラグビー部も常時メンバーが足らず、2022年4月時点では私立公立合わせ合計16校で合同チームを組んでいたという。
「連合は着任時から。部員が足りない学校の顧問同士が声をかけ合うんです。でも、ウチはまだいいほう。学年によっては自校だけで成り立ちましたから。毎年春に1年が入り、秋には3年が抜ける。そのバランス次第の面もありました」
今夏は3年生2名、2年生6名、1年生1名とギリギリ9名に達し、単独で予選に出場することもできた。ところが、今大会が最後になる3年生2人に確認すると、「連合で出たい」という。それは伊野教諭が望んだ答えでもあった。勝利を狙うにはそれしかないと判断していたので、連合での出場を即断した。
「夏の連合は初めてでしたが、昨秋から同じ仲間と戦ってきたんで、その形を一年貫くことができれば結果を出せると思っていました。2人の3年生は単独出場も連合もどちらも経験していて、1年の時は(府立)阪南高校との連合でした。バッテリーを組むこの2人が連合で出たいというのなら、尊重しなければなりません。結果、4回戦まで勝ち進むことができました。目標の初戦突破を達成し、結果、ベスト32に残りました。選手たちはやればできることを証明してくれました」
仮に1チームで9人揃ったとしても、現在のルールでは、「計20人以下なら9人以上の高校が1つ混ざっていても可」とされる。となると、パワーバランスの面で人数の多いチームは少数派に対し配慮が必要だ。今回の連合は北摂つばさが9人と最も多く、以下府立箕面東3人・同福井3人、同茨木工科1人の計4チーム16人で戦った。一方、昨秋ともに戦った私立の高槻高校は中高一貫で、新入部員の目処が立ったため、予選には単独出場した。
「相方を取っ替え引っ替えし、とりあえず試合だけ出場するために連合を組むのでは、中長期的な成長は望めません。我々の場合、私の球歴やずっと続けているブログを読み、安心して任せられると思ってくださる保護者もいて、野球部を志望して受験する生徒が徐々に増えてきました」
北摂つばさでも欠員が出なくなれば、単独出場を選択するだろう。だが、「連合には連合のよさがある」と伊野教諭。
「他の部から選手を借りてでも単独で大会予選に出たい、というのが多くの学校の本音でしょう。でも、予選で1勝でもしたいとの気持ちも強い。そして、連合を組んだなら、より勝つ可能性が高まる。思いはせめぎ合いますよね。また、勝利だけでなく、連合は他校の同志との交流を通じ、一人一人が成長するという利点もあります。ただ、本校のサッカー部だと、今年は新入生が多く入って自前で成立していますが、連合を組むぐらいなら休部という方針。そんなプライドもよくわかるんです」
今年度の府高野連加盟校は173校で、うち21校が計6チームの連合チームとして夏予選に参加。一方、1校は閉校となり、連合を組めなかった6校は不参加を決定。さらに5校は連盟自体を脱退している。かつてどんな高校にも存在した硬式野球部がそれだけ減少しているのだ。
次に女子サッカーの現状を見てみよう。サッカーでは連合チームを「合同」と呼ぶのが普通だ。
昨年12月末から1月中旬にかけて行われた全日本高校女子サッカー選手権で、沖縄代表は6校合同チームだった。中心となったのは県立八重山高校。そのため県内では「八重山合同」とも呼ばれたが、同校以外の内訳は以下の通り。久米島・浦添・浦添商業・陽明・興南。野球の強豪として知られる興南以外、みな県立だ。
そのうち、たった一人しか部員がいないのが久米島高校。唯一の部員である3年生の糸数凪沙さんは、昨年10月の予選決勝の那覇商業戦で見事な追加ゴールを決め、全国行きを決定的にした。彼女の奮闘はさる5月、県内で注目度の高い琉球放送制作のテレビ番組『全力部活』で大きく取り上げられた。
県内の女子高サッカー関係者によれば、糸数さんが2023年に同校に入学した時点では、サッカーに精通する教員が勤務していたこともあり、当初は同好会としてスタート。すぐに部活に昇格したという。
「糸数さんが2つ上の兄の影響で小1からサッカーを始め、地元のクラブチームで男子に混ざって活動しているのは知られていました。今も普段の練習は男子サッカー部と一緒です。その男子も去年は1名のみ。今年は新入生7名が入ってきましたが、それでも8名と足りていないので、那覇工業と合同チームを組んでいます」(サッカー関係者談、以下同)
女子も今年度は興南がチームから離れ、残る5校合同で戦った。大会予選の初戦は突破したが、2回戦では優勝した那覇西に0‐1と惜敗。“昨年度の夢よ、もう一度”とはならなかった。
「来年度は同じくクラブでサッカーを続けてきた妹さんが入るとの噂ですが、どうなるかはわかりません。糸数さんも思春期を迎え、男子の中に入ってプレーする上で『いろいろ思い悩むこともあった』と、番組でお父さんが話していましたが、中2でいったんサッカーから離れたそうです」
陸上競技でも実力を発揮し、一時は本島の強豪校への進学を検討したそうだが、住み慣れた地元の久米島への進学を決め、そこで女子サッカー部が立ち上がった。そして、八重山高の女子サッカー部のメンバーと出会い、初めて女子だけの試合に出場したことで、自分のプレーに自信が持てた。さらに大会に出場し、「改めてサッカーの楽しさを知った」という。
「でも、糸数さんは久米島にいて、他のメンバーがいる八重山や本島とは距離がありますから、普段はリモートで戦術などのミーティングを重ねるだけ。同じ練習メニューをこなしますが、揃って練習できるのは試合の前日とか当日朝ですね」
むしろ、遠方同士のぶん、精神的な結びつきが密接になるのかもしれない。SNS時代のスポーツの新たな形を見るようだ。
「沖縄は決して強いとは言えませんが、女子サッカーの人口自体は多い。九州大会だと2回戦が実質的な準決勝だったりしますが、3回戦まで進まないと全国は狙えない。離島の多い地域において、合同チームはこれまで試合に出たくても出られなかった少数派のために存在します。彼ら彼女らの受け皿になることで、さらに競技の人気を盛り上げられると信じています」
今回は野球と女子サッカーに絞って実情を追ったが、ラグビーなどもっとメンバーを要する競技を見ても、連合チームは「時代の要請」と言えるのかもしれない。学校単位の「部活」から地域ごとの「スポーツ活動」へと、中学高校のスポーツを捉え直す必要が間近に迫っている。
取材・文/鈴木隆祐