スポーツ
サニブラウンに大坂なおみ「ハーフアスリート」強さを科学する
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2019.06.16 11:00 最終更新日:2019.06.16 11:00
いまや、その活躍が当たり前になった、ハーフたち。閉塞した日本の救世主になりうる彼らは、芸能界では抜群の存在感で人気者になり、スポーツの世界では次々と記録を塗り替えている。
その代表が、陸上男子100m走で日本人2人めとなる9秒台を記録し、6月10日には日本新記録の9秒97を叩き出した、サニブラウン・ハキーム。父親はガーナ出身だ。
そして、全仏テニスでは敗退したものの、世界ランキング1位を保持する、大坂なおみ。父親は、ハイチ出身のアメリカ人だ。
【関連記事:ローラから小山ルミまで「ハーフ美女」写真で振り返る50年】
さまざまな競技で活躍する、日本人ハーフアスリートたち。ここで紹介する選手はその一部だが、いずれも日本人離れした体格の持ち主だ。彼らの長い手足や強靱な筋肉は、アスリートにとって強力な「武器」となる。
東京大学大学院総合文化研究科の深代千之教授(バイオメカニクス=生体力学)が、人種による体格の違いをこう説明する。
「日本人は2000年来、『農耕民族』として定住してきたので、それに適した、手足の短い体型になったと考えられます。
それに対し、『狩猟』を中心に暮らしてきたヨーロッパ、アフリカの人々は、移動することの多い生活だったので、手足が長くなりました。当然、手足が長いほうが、素速く移動するタイプのスポーツでは有利になります」
なかでも、身体能力が高い人種が黒人だという。その強さは、科学的なデータによっても裏づけられている。
「運動能力に直接関係する『骨格筋』をミクロのレベルで見ると、髪の毛ほどの太さの筋繊維が集まってできています。筋繊維は、『速筋繊維』と『遅筋繊維』に大きく分類されます。
筋肉は縮むときに力を発揮するのですが、速筋繊維は収縮速度が速く、力も大きい。そのかわりにすぐに疲れてしまう、いわば瞬発型の筋肉です」(深代教授、以下同)
反対に遅筋繊維は、力の大きさは小さいものの、長時間、力を発揮し続けることができる持久型の筋肉だ。
「一般的に、黒人には『瞬発型の速筋繊維が発達している人が多い』といわれています。これが、短距離走に強い黒人選手が多い、理由のひとつと考えられます」
また、運動を続ける際には大きなエネルギーが必要となるが、それを代謝する能力も、黒人は優れているという。
「筋肉を動かすときに『ATP』というエネルギーが使われます。このATPはすぐに使い切られてしまうので、再生産しなければなりません。
ATPを体内で再生産するときに働く『クレアチンキナーゼ』という酵素があります。黒人は、このクレアチンキナーゼの能力が高いという研究があります」
さらに、深代教授が注目したのが筋肉と腱の「粘弾性(粘りや弾力性)」だ。米国の大学で白人と黒人の競技選手を対象に比較実験した結果を、教授は2002年に国際論文で公表している。
「筋肉や腱の粘弾性が高いほど、短距離走やジャンプの能力が高まると考えられますが、この実験では、黒人選手の筋肉のほうが白人選手の筋肉より弾性が高い、という結果が明らかになりました」
こうした特性を親から受け継いでいるとすれば、高い身体能力が備わるのもうなずける。しかし、深代教授は、「それ以上に環境やトレーニングによる影響も大きい」と語る。
「身体能力がストレートに出る陸上競技と違って、大坂なおみ選手の強さは、『ただ優れた身体能力を持っているから』というだけでは説明できません。技術や戦術など、ほかの要素も加わることで、強くなるわけです。
これらは日本人が得意とする分野。大坂選手は、両親のいいところを受け継いでいるのでしょう。その意味では、ハーフならではの強さといえます」
優れた身体能力だけではなく、日本での練習やトレーニングも経験してきた結果が、世界的な舞台での活躍に結びついたのかもしれない。以下では、第一線で活躍する、ハーフアスリートを紹介する。
●大坂なおみ
父はハイチ系アメリカ人。21歳のプロテニス選手。2018年の全米、2019年の全豪と四大大会を連覇。日本人初のグランドスラムシングルス優勝、アジア初の世界ランク1位に。
●ダニエル太郎
父がアメリカ人で、ニューヨーク出身、26歳のプロテニス選手。ランキング最高位は64位。2018年のイスタンブール・オープンで優勝。日本男子4人めの、ATPツアーシングルス優勝者となった。
●サニブラウン・ハキーム
ガーナ人の父を持つ20歳。高校時代からスプリンターとして注目を集め、陸上男子100m走で、5月には日本記録タイの9秒99、6月10日には日本新記録の9秒97をマーク。現在、日本人最速のスプリンター。
●ケンブリッジ飛鳥
父はジャマイカ人で、ジャマイカ生まれの大阪育ち。26歳。2016年リオ五輪では男子4×100メートルリレーでアンカーを務め、銀メダルを獲得した。100メートルの自己ベストは10秒08。
●ヘンプヒル恵
父がアメリカ人で、陸上の七種競技、100mハードルで活躍する23歳。七種競技では、日本歴代2位の記録をマークした。京都育ちで、ツイッターでも京都弁。
●高松望ムセンビ
父はケニア人で、国際大会優勝経験を持つマラソン選手。ケニア生まれ、大阪育ちの21歳。2014年ユース五輪3000mで金メダルを獲得。妹の智美も、中長距離の有望株として期待される。
●宮部藍梨
ナイジェリア人の父を持つ、バレーボール選手。20歳。身長は183cm。2015年、高校在学中に全日本メンバーに選出。現在はアメリカの大学でプレー中。妹の愛芽世(あめぜ)も注目選手。
●ベイカー茉秋
父はアメリカ人だが、幼少期に離婚し、日本で育つ。24歳。6歳から柔道を始める。2016年リオ五輪では、90kg級で金メダルを獲得。柔道では100kg級のウルフ・アロン(23)も、父がアメリカ出身。
●高安晃
母がフィリピン人の29歳。田子ノ浦部屋所属の力士で、2017年、大関に昇進した。引退した横綱・稀勢の里は、兄弟子にあたる。次期大関候補と期待される御嶽海(26)も、母がフィリピン人。
●オコエ瑠偉
父がナイジェリア人のプロ野球選手。21歳。外野手。2016年にドラフト1位で楽天入り。プレーに粗さはあるが、身体能力は日本球界でも突出。4年めとなる2019年の活躍に期待がかかる。
(週刊FLASH 2019年6月25日号)