じつは、現場となった一軒家は、数年前から近所で問題視されていた。別の近隣住民が語る。
「たくさんの犬の鳴き声や臭い、放置されたゴミなど目に余るものがあったので、家主さんが亡くなる前から、何人かで区役所に相談していたのですが、“プライバシーが” とか “ほかの部署が動いているから” と、取り合ってもらえませんでした」
今回のようなケースを、未然に防ぐ手立てはないのか。東京弁護士会の公害環境委員会・動物部会で部会長を務める島昭宏弁護士(アーライツ法律事務所代表)は、こう語る。
「法的アプローチは非常に難しいですね。“第三者が立ち入る緊急性がある” と誰が判断して許可を出すのか。
もっとも、新宿区にも東京都にも動物愛護の担当職員がいるわけですから、近隣から通報があった際に、飼育崩壊を少しでも食い止める努力をすべきだったとはいえます。それをしないのは怠慢ですし、違法行為にあたる可能性もあります」
事実関係について新宿区に問い合わせたところ、動物愛護を担当する新宿区保健所衛生課から代表して回答があった。
「近隣住民の方々からのご相談に応じて、当保健所が当の家主とやりとりを始めたのは、2007年6月のことです。以後、何度か犬の一部を引き取るための交渉などを進めましたが、いずれも本人の了承が得られませんでした」
家主が亡くなったあとの認識については、近隣住民の証言と食い違う部分もある。
「6月22日に飼い主様が亡くなられているのが発見された際、現場にいた当区の担当者から、『瀕死の状態の犬が生きているかもしれないので引き取ってほしい』と、収容施設のある東京都の動物愛護センターに連絡を入れました。ですが今度は、ご遺族のご協力が得られませんでした。
また、6月30日に消防が再び該当のお宅に立ち入りをおこなったあとは、“生存している犬はいない” という報告を受けています」(同前)
実際にはその時点で、少なくとも1頭の犬は生きていたのだ。崩壊が起こってしまう以前に、「多頭飼育」そのものに規制をもうけることはできないのか。
「現状、“ペットは飼い主の財産” “個人の自由” という法的観点から、ペットの飼育数については、動愛法をはじめ法律で制限されてはいません。4~5頭で崩壊することもあれば、20頭いてもうまく世話ができているケースもあるので、数による線引きは難しいんです」(島弁護士・以下同)
こうした状況に対して、日本国内では新たな流れが。
「アメリカなどで採用されている、いわゆる “アニマルポリス” の概念が、日本でも導入され始めています。たとえば兵庫県警では、動物をめぐってなにか問題があれば、“まずはアニマルポリスホットラインに電話を!” という仕組みが作られました」
今回、佐々木氏のもとには、SNSを通じて大きな反響があった。
「たくさんの方に、コメントをいただきました。ある有名な女優さんは、私たちの投稿をリポストしたあと、犬たちへの悼みの声と私どもへの激励をダイレクトメールで送ってくださった。
“ゴミ屋敷” のなかには、亡くなられた家主さんが、犬たちを愛していた様子がよくわかる写真がありました。多頭飼育の崩壊は、世間のイメージにあるような、愛情の欠落や動物への嗜虐性ばかりが原因ではないんです」
せめてその悼みが、天国の犬たちに届いてほしい。
写真提供・NPO法人みなしご救援隊「犬猫譲渡センター」
※本件の経過が投稿された「犬猫譲渡センター」のSNSアカウントは、インスタグラム(@npo_inuneko_t)/ツイッター(@minashigo0226)