エンタメ・アイドル
「本能寺の変」の動機は…井沢元彦の『麒麟がくる』結末予想
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.09.27 11:00 最終更新日:2020.09.27 11:00
新型コロナウイルスの影響で撮影が中断し、放送も一時休止していた大河ドラマ『麒麟がくる』が待望の再スタートした。物語後半のクライマックスは、なんといっても「本能寺の変」。そこで、歴史小説家の井沢元彦氏に、「私が脚本家だったらこう書きます」という持論を語ってもらった。
【関連記事:大河ドラマ『麒麟がくる』の遊女シーンが話題に「おっぱい祭りだ」】
独自の緻密な推理を織り交ぜながら歴史小説を展開することで人気の作家・井沢元彦氏は、『麒麟がくる』の前半をこう振り返る。
「戦国時代の武将の衣装は、とてもカラフル。そのあたりはうまく再現できていて、『時代考証がしっかりしている』という印象はあります。
ただ、斎藤道三が死んで明智光秀も越前に逃げるわけですが、桶狭間の戦いが始まったときに、わざわざ見にいく演出がありました。ほうほうの体で逃げた光秀が桶狭間を見にいくのは、ちょっと考えづらいです」
やや辛口の評価もあるが、総じて興味深く見たという。光秀の人物像はどうか。
「戦もできる。鉄砲に精通していて、自分でも撃てる。そして和歌も詠めて、外交もできる。さらに優秀な行政マンでもあった。武辺だけの武将が多い時代において、光秀は理工系の頭脳を持った万能な家来だったのです。織田信長は重宝したことでしょう。
しかしとにかく、信長は人使いが荒かった。いまで言ったら超ブラック企業の社長(笑)。光秀は信長より3歳年上で、本能寺の変のころは、現代ならリタイアしている年齢。それでも信長は、こき使った。光秀は心身ともに、かなり疲弊していたと思います」
元TBSテレビマンの井沢氏。諸説あるなかで、NHKは本能寺の変をどう描くと睨んでいるのか。
「『怨恨説(※)』を採用するのではないかと思います。名もない素浪人だった光秀を、大名にまで引っ張り上げたのは信長。光秀にとっては大恩がある主君で、普通は『信長を裏切るはずはない』と考えます。しかし裏切った。
光秀を暗殺にまで至らせた、信長の『非道なおこない』を描くストーリーで進めるでしょう」
それでは井沢氏なら、本能寺の変に至る光秀の心模様を、どう表現するのか。
「私は、いわゆる『四国説』を支持しています。信長は勢力拡大の方法として、諸国の有力大名と自身の重臣の関係を密にさせました。四国で名を馳せていた長宗我部元親との関係強化をまかされたのが、光秀。光秀は、筆頭家来の斎藤利三の妹を長宗我部に嫁がせ、姻戚関係を結んだ。
しかし一方で、信長は秀吉には、四国で長宗我部と覇権争いをしていた三好家に接近するように指示していました。結局、長宗我部が勝ち、四国統一が目前になりました。
ところが信長は、『四国は長宗我部にまかせる』とした方針を撤回、長宗我部を倒すために四国征伐を決定しました。しかし、これでは斎藤利三の妹も殺されてしまうし、光秀も面目が立たない。
そして織田軍勢が四国に出立する天正10(1582)年6月2日に、光秀は信長を討ち、四国征伐は中止になりました。光秀は、疲労困憊で本能寺の変を起こしたと思います」
歴史に「if」はつきものだ。推理に定評がある井沢氏に「もし本能寺の変がなかったら、どうなっていたか」を尋ねた。
「中国には毛利、九州には島津がいて、動きを封じられていましたが、信長には朝鮮進出の計画がありました。光秀と秀吉という、タイプの違う有能な家臣を存分に使えたので、もしかしたら朝鮮進出に成功していたかもしれません」
放送休止前の平均視聴率は15%を超え好調を維持したが、井沢氏は若干危惧する。
「明智光秀というと、皆さん名前は知っていますが、歴史上は地味な存在。信長、秀吉、家康のように大スターではありません。そんな光秀を忠実に描こうとすれば、どうしても地味になってしまいます。
配役の問題もある? どうでしょうか(笑)。だけど沢尻エリカさんが演じる帰蝶は見たかったですね。おそらく当初の脚本は、沢尻さんがもっと前面に出てくるように描かれていたと思います」
いざわもとひこ
1954年生まれ 早稲田大学法学部卒。『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞。近著に『コミック版 逆説の日本史 江戸大改革編』(小学館)
(※1)怨恨説
頭髪が薄かった光秀を、信長は「きんか(きんかん)頭」と揶揄。怒ったときに光秀の髪の毛をつかんで振り回したため、付け毛(かつら)が取れてしまった。
さらに武田攻めを終えた光秀が「このたびの戦は骨が折れた」と言うと信長は激怒。「いつお前が骨を折ったのだ」と光秀の頭を欄干に叩きつけた。
本能寺の変の1カ月前には家康のおもてなし係を命じられるも、膳に腐ったにおいのする魚が盛られていたことに信長が怒り、衆目のあるところで面罵したことから唱えられている説。
(週刊FLASH 2020年9月15日号)