池田エライザ、売れっ子女優が前代未聞の映画監督に…原点は「黄色い帽子の小学生」

「『夏、至るころ』は、本当にベテランの監督が撮ったような映画ですよ」（リリー）

　本作に、主人公の祖父役で出演したリリー・フランキーは、池田の監督ぶりを、こう評する。

「池田監督は撮影中の指示も明快で、演出もすごくわかりやすいです。あと驚いたのは、テンポよく撮れること。『抑えに、これも撮っておくか』ということを、あまりしない人ですね。

　もちろん予算に限りがありますし、とくに若い監督は、短い時間で作品を作らざるをえません。そんななかでも池田監督は、頭の中に『こういうものを撮る』というビジョンがはっきりしていました」

　本作では、原案も務めた池田。将来への不安や友人との複雑な感情のうつろいなど、誰しもが体験する思春期を描いた。

「よく、『池田監督の原体験が基になった映画』と書いていただくんですが、じつはそれは少し違います。私、高校生のときは『CanCam』のモデルで、つまり思春期には芸能人でしたから、めちゃめちゃ恵まれたレールの上を歩いていたんです（笑）。ただ、私も同じ福岡県出身なので、今作で描いた『九州の夏』は知っています。

　日本だとありがたいことに、学生時代の夏をほとんどの人が共通体験として持っていますよね。貼りつくようなセミの声も、そこから記憶をたどれば地元の匂いも。さらに思い返せば、『帰り道には、よその家から煮魚の醤油の匂いもしてきたな』とか。そうした、みんなが持っている夏の記憶を、作品を通じて呼び起せたらいいなって」

　池田には、本作を通じて、伝えたいことが明確にある。

「このご時世もあって、みんな未来の心配ばかりをしています。そんななかで私は、『あんな大人には絶対なりたくないって思ってたな』という、かつての感覚を思い出しました。

　人も死なないし、火薬も使わないので爆発シーンもない。そういう意味で『夏、至るころ』は、“つまらない” 映画だとは思います。

　でも、この映画を観たあと、『もっと自分のこと大切にしなきゃな』とか、『昔の自分が、今の自分を見たらショックを受けるだろうな』という感覚を、思い出していただけたらいいな。説教めいていてもいいから、自分を大切にする時間をもってもらう、きっかけになりたい……と、そんなことばかり考えています。

『自分へのメッセージじゃないの？』と言われれば、そうかもしれません。私は、『小さいときのことなんて、忘れちゃったな』と軽く言う大人が、すごく悲しくて。

　小さいころ、私は『大人になったら、こうなりたい』というのを考えていました。たとえば『知らない人にも挨拶できる大人になろう』とか、『八つ当たりをする前に判断できる大人になりたい』とか……。そんなことを、私は今、大切にしたいんです」

　映画監督として、今後の展望は？

「まだ『夏、至るころ』が公開中ですが、いったん様子を見ながら……次の作品も撮るつもりです。というのも、短編の小説や映画のプロットは、もともと映画を撮るずっと前、小学生のころから書き続けていて。

　たとえば、坂の上に黄色い帽子の小学生がいたら、帰り道はずっと、そのコの物語を考えていました。忘れないように、途中からダッシュで帰ってメモしたり。そういうものがいっぱいあるので、また時代に合わせて書き換えて、これからの映画に使っていけたらいいですね」

いけだえらいざ
24歳 1996年4月16日生まれ 福岡県出身。2009年「第13回二コラモデルオーディション」でグランプリを獲得し、芸能活動を開始。『nicola』『CanCam』の専属モデルを務める。2011年、映画『高校デビュー』で女優デビュー。2015年の『みんな！エスパーだよ！』でヒロイン役が話題に。2021年春以降は出演映画として、『騙し絵の牙』（3月26日公開）、『映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』（4月29日公開）、『真夜中乙女戦争』 （2022年冬公開予定）が控えている。2018年から『The Covers』（NHK BSプレミアム）のMCを務め、同番組で不定期に歌も披露。3月28日放送回で同番組を卒業する。現在公開中の映画『夏、至るころ』で監督デビュー

写真・久保貴弘
スタイリスト・大島陸
ヘアメイク・豊田千恵

※池田の映画監督デビュー作『夏、至るころ』が、広島・岡山・沖縄でも公開。詳細は作品ホームページにて
※『The Covers』（NHK BSプレミアム）の池田の最終出演回は、3月28日に放送予定