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「中森明菜は絶望や退廃を歌えるアーティスト」名物音楽プロデューサーが語る“いまこそ明菜が必要な理由”

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.10.08 14:30 最終更新日:2022.10.08 14:32

「中森明菜は絶望や退廃を歌えるアーティスト」名物音楽プロデューサーが語る“いまこそ明菜が必要な理由”

 

「ゆっくりになってしまうと思いますが、歩き出していきたいと思いますので、どうか見守っていただけると嬉しいです」

 

 中森明菜(57)がツイッター公式アカウントにて、新事務所の設立をコメントと共に発表したのが8月30日。あれから1か月以上が経ったが、新しい情報はないままだ。それでも“明菜の再始動”についての話題は多く、その行方が注目されている。

 

 

 なぜここまで、彼女は多くの人に求められるのか。中森のことをよく知るひとりが、音楽プロデューサーの川原伸司氏(71)だ。

 

 川原氏は松田聖子の『瑠璃色の地球』(ペンネームの平井夏美名義)を作曲、井上陽水と『少年時代』を共作するなどのほか、1990年代の中森明菜のアルバムをプロデュースしてきた。約50年の音楽人生をまとめた初の著書「ジョージ・マーティンになりたくて~プロデューサー川原伸司、素顔の仕事録~」(シンコーミュージック・エンタテイメント)を7月に上梓。

 

 10年以上のつきあいの中で、中森のアーティストとしての魅力を感じ、その繊細な人間性に触れてきた川原氏に話を聞いた。

 

「中森さんと最初に仕事をご一緒したのは、1991年の『二人静~天河伝説殺人事件より~』のレコーディング。彼女は3通りの歌い方を準備してきていたんですよ。それで『どれがいいか決めてください』ってね。正直、生意気だなと思いました(笑)。でも聴いてみたらその考えは変わった。

 

 1つ目はウィスパー(ささやくようなウィスパーボイス)で、『最近、こういう歌い方に凝っているんです』と言って。2つ目は『ちょっと力強い表声で歌います』と。3つ目は『私のものまねをする人がよくやる歌い方』だと言って、ビブラートを効かせて歌ってね。僕はこの人は1曲の歌を3通りに演じてみせる、女優さんだなって思った。しかも完璧に準備してきてるんだから、自分なりに考えて練習をしてきたということでしょ」

 

 3通りのどれもが素晴らしかったというが、同席していた作詞家の松本隆が『すべて素晴らしいけど、もっと桜吹雪が舞う中で舞っているような歌い方をしてみて』と、難しい注文をつけたという。

 

「すると瞬時に彼女なりのイメージで咀嚼して歌ってみせた。その場で自己表現ができるわけだから、アドリブにも対応できるということです。

 

 結局、彼女は4通りの歌唱法で表現してくれて、4つ目の歌い方でレコーディングはしたのだけれど、どれも本当に素晴らしかったです」

 

「レコーディングの相性はとても良かった」というだけあって、川原氏はこの後、10年以上に渡って、中森のアルバムをプロデュースしていく。なにかにつけて“わがまま”“トラブルメーカー”という見方をされてきた彼女だが、川原氏はそうではないと話す。

 

「中森さんは自分が歌うべき歌、“名曲”を歌いたいと思っていたんですよ。でも当時はレコードメーカーや所属事務所の都合で、3か月に一曲、新曲をリリースしないといけなかった。でも3か月で名曲なんて生まれないんです。だから彼女は『歌いたくない』と言ったんだと思うんですが、それがすべてネガティブな評価になってしまった。

 

 彼女は『スター誕生!』の出身だから、当時は“アイドルの枠”に入れられてしまっていたんです。でも最初からアイドルではなくて、アーティスト。『誰にも負けない』という気持ちで歌に向き合っていました。最初からその本質だけをきちんと見て制作してあげれば、あんな誤解は生まれなかったのだと思いますよ。彼女も余計な戦いをしないで済んだでしょうし。時代が追いついていなかっただけです」

 

「誰にも負けない」という彼女の歌に対する気持ちを語るにもってこいの、こんなエピソードがある。

 

「僕がレコーディングの合間にギターを弾きながら、エリック・クラプトンの『ティアーズ・イン・ヘヴン』を歌っていたときのこと。それを聴いていた中森さんが『川原さん、私と勝負する気ですか?』って言ってきて。何、急に? って、驚きましたよ(笑)。要は彼女もその歌が大好きで、私なりに歌えますと。僕が歌っていたのを聴いてリアルに感じたから、そんな言葉が出たんだと思います。それぐらい彼女は歌に対して本気だし、誰にも負けたくないと思っているんだよね」

 

 川原氏が中森と最近会ったのは5年前。新しいアルバムを制作するということで打ち合わせをしたという。

 

「ちょっと痩せたな、とは思ったけど、驚くほど変わったわけではなかった。そのときは打ち合わせをしただけで歌声は聴いていないんです。僕はこれが仕事だから、いま、彼女がどんな歌い方をするのかを聴いてみたいという気持ちはあります」

 

 今、時代が中森明菜を求めているのは、そんな彼女の歌声を聴きたいという思いと、未来の見えない不安な世の中であることが大きいという。

 

「(井上)陽水さんは最初のころから中森さんをすごい評価していたから『飾りじゃないのよ涙は』を提供したし、玉置(浩二)さんも『サザン・ウインド』を提供した。みんな彼女のあの声に魅了されているんですよね。

 

 中森さんの声はアルト系、低めの声。竹内まりやさんやカーペンターズのカレン・カーペンターの声もそうなんだけど、低い声は同性に好かれるし、本音が伝わる。落ち着いていて、説得力があるんだよね。だから先の見えない不安な時代には、中森さんみたいな声には説得力があって不安や絶望感を共有できる。絶望や退廃を歌えるアーティストなんですよ。

 

 NHKで放送されたライブを見て、彼女を知らない若い世代がぐっと惹きつけられる要因はそこなんだと思います。まさにいまの時代が彼女の声を求めているんだよね。中森さんは驚くぐらい人を信じやすくて、だからこそ騙されてもしてしまう。世渡り下手で不器用で人間臭い。でもそこが愛おしいんだよね。だからこそ大衆芸術家として、文化としても残る中森さんの才能を、大事にしてあげてほしいと思うんです」

 

 中森が再びステージに立ち、その歌声を響かせるのはいつなのか。その瞬間を多くの人間が待ちわびている。

( SmartFLASH )

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