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『アトムの童』オダギリジョーの独壇場、いちいちスタイリッシュでやたらかっこよかった【ネタバレあり】
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.12.12 17:02 最終更新日:2022.12.12 17:14
最初から最後までオダギリジョーのドラマだった。
あくまで個人的な感想ではあるが、12月11日に最終話(第9話)を迎えた山﨑賢人主演の日曜劇場『アトムの童』(TBS系)は、筆者の目にはそう映った。
前半は、若き天才ゲームクリエイター安積那由他(山﨑)や仲間たちが革新的なゲームを制作し、廃業危機だった老舗おもちゃ会社「アトム玩具」を再建していくという物語だった。オダギリは最大の悪役で、那由他たちに数々の謀略を仕掛けてきた大手IT企業「SAGAS」社長の興津晃彦を演じていた。
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そんな興津、第7話以降では「SAGAS」の株が大財閥に大量取得され、ゲーム事業部門の売却を迫られるなど大ピンチに陥った。そのため、敵対していた那由他と手を組むという驚きの展開になっていたのだ。
■【ネタバレあり】主人公との共闘で魅力がさらに跳ね上がる
前半の興津は、わかりやすく悪の限りを尽くすようなキャラクターで、彼が巨悪に徹してくれたおかげで、日曜劇場お得意の勧善懲悪ドラマとして見やすくなっていた。
しかも、陰湿な妨害工作で、那由他たちをハメてはいやらしい笑みを浮かべるという、ひたすらムカつくヤツにもかかわらず、立ち振る舞いがいちいちスタイリッシュでやたらかっこいいのだ。
しかも、那由他たちに「助けてほしい」と頭を下げた第7話から、興津の魅力がさらに跳ね上がる。弱さを見せ、真意を語ったことで、もともとのニヒルな悪役としてのかっこよさに人間味まで加わったからである。
とはいえ、一応説明しておくと、興津が実は善人だったというわけではない。
性格がねじ曲がっており、人(人材)を大事にしていなかったのはまぎれもない事実。那由他と共闘を始めたからといって急に仲良くすることもなく、不遜かつ高慢な態度は相変わらず。いきなり弱々しい善人になったりしたら興覚めしていたかもしれないが、そうならなくてよかった。
■本作最大のハイライトは第8話の『ぷよぷよ』対決
全9話のなかで、筆者が一番グッと来たのが、第8話で那由他と興津が『ぷよぷよ』勝負をしながら語り合うシーンだった。
那由他が借りている安アパートに突然現れた興津。新作ゲームのアイデアに煮詰まっている那由他にハッパをかけるために訪れ、「朝までに打開策を示せ。寝ずに考えろ」と上から目線。
協力をお願いしている立場なのに、「俺だって触りたくねぇよ、こんな汚ねぇ部屋。ちゃんと掃除してんのか。俺ハウスダストだめなんだよ」なんて悪態をつく。こんなちょっとしたセリフも、オダギリが演じるとかっこいい。
その一方で、日本企業が持っている優秀な技術を守って世界に発信したいという真意があり、興津には興津なりの正義があったことが那由他との対話で明らかになったのだ。
「まあ契約なんて立場によって見方が変わる。こちらにそのつもりがなくても、君たちからしたら俺はゲームを奪った悪党なんだろう。理解されないことはわかってるよ。俺は日本中から嫌われてるからね」
こう少し寂しげに本音を語る興津=オダギリが漂わせる男の色っぽさたるや、もはや唯一無二なんじゃないだろうか。
最終話の終盤で、「技術とは人だ」と悟った興津が、那由他たちに「ありがとう」と握手を求め、これからは人材を大切にすると語るシーンは、少々善人化しすぎではないかと思った。だが、「『ぷよぷよ』、意外と燃えたな」と言って去っていく姿はやはり超絶クールなのである。
■山﨑が演じたのは類型どおりの “破天荒な天才”
これは主演した山﨑の責任ではないが、本作の主人公・那由他はちょっと魅力が乏しく、可もなく不可もなくという印象。キャラクターとして無個性というわけではないが、よくある “破天荒な天才” 型の主人公で、いわば類型どおり。想定の枠を飛び出るようなワクワク感を覚えなかった。
それを補ったのがオダギリ演じた悪役・興津なのだ。『アトムの童』を観終えたいま、ドラマや映画にはライバルとなる悪役の存在がいかに大切で、魅力ある悪役がどれだけストーリーを盛り上げてくれるかが、まざまざとわかった。
余談だが、興津は、スキャンダルで降板した香川照之が演じる予定だった。これも香川のせいではないが、香川にスタイリッシュなIT社長というイメージが抱けないため、もし香川が予定どおり興津を演じていたら、薄ら寒いコントのようになっていたかもしれない。
オダギリが急遽代役を引き受けてくれたことは、本作にとって非常にラッキーだったと思う。
■最終話に不満点は多いが、オダギリの存在感に免じて許せる
正直言って、最終話に不満点は多い。
最後に発表したパルクールを題材にしたゲームは、那由他の親友で、ゲーム制作でコンビを組んできた菅生隼人(松下洸平)が開発に関わっておらず、消化不良だったこと。
その発表されたパルクールゲームが、革新的なアイデアがあるようには思えず、なんだかグラフィックがしょぼくて、世界で大ヒットするような作品とは思えなかったこと。
興津の代わりに実質的なラスボスになった大財閥の女社長(麻生祐未)が、悪役としての魅力に乏しく、最終話にはもっとアクが強く歯ごたえのある敵役を登場させてほしかったこと。
その女社長は株主総会で負けたものの、視聴者の留飲が下がるようなわかりやすいギャフンシーンがなく、涼しい顔で去っていったこと。
こういった不満点は数あれど、興津という魅力あふれる悪役に免じて許してしまえるほど、オダギリの存在感が際立った作品だった。
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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